現役世代の「年収の壁」。解消に向けての対策がスタートしましたが、現役を引退したリタイア組には「年金211万円の壁」があります。対策次第では、年金減額という思わぬ事態に直面する場合も。みていきましょう。
年金215万円だったが…繰上げ受給で「年金211万円の壁」超えずに歓喜も、まさかの「年金減額」に高齢夫婦、絶句「う、うそだろ」 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金にもある「年収の壁」…「年金を減らして手取りを増やす」という対策の落とし穴

現役世代を悩ませる「年収の壁」。さらに高齢者にも「壁」は存在します。それが「年金211万円の壁」です。

 

211万円は、年金のみで生活する65歳以上の夫婦2人世帯が「住民税非課税世帯」になるかどうかのボーダーライン。65歳以上の年金生活者である世帯主の非課税限度額は、「(基礎控除)35万円×(世帯人数)2+(所得金額調整控除)10万円+(被扶養者がいる場合に加算できる金額)21万円=101万円」、これに公的年金控除110万円を足して211万円となります。

 

さらに住民税非課税世帯となるには、配偶者も非課税水準の収入であることが前提であり、「(基礎控除)35万円+(所得金額調整控除)10万円=45万円」と公的年金控除110万円を足して、155万円以下でなければいけません。

 

年金受給者のなかにどれほどの人たちが住民税非課税世帯なのでしょうか。厚生労働省『国民生活基礎調査(2021年)』で確認してみると、60代で全体の20.7%、70代で33.1%、80代で44.1%。80代になると、実に半数近くの世帯が住民税非課税世帯となります。

 

年収211万円を境に、手取り額ベースで1年で約6万円の差が生じるといわれているので、「211万円を少々超えてしまう世帯」なんとかしたいもの。

 

たとえば、国民年金+国民年金が月11.3万円の夫と、国民年金満額受給の妻という夫婦。年金収入は年215万円となり、年金210万円の夫婦のほうが手取りは多いという逆転現象が生まれます。

 

普通であれば「年金を増やせないか」と考えるものの、ボーダーラインに近い人は「年金を減らせないか」と考えることになります。

 

そこで使えるのが「年金の繰上げ受給」です。原則として65歳から受け取ることができる老齢年金を、60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受け取ることができる制度。1ヵ月繰り上げることに65歳で受け取るはずの年金額から0.4%ずつ、最大24%減額となります。たとえば、前述の夫婦が半年早く年金を受け取ることにしたら、年金は3%の減額となり、1年の年金収入は208.6万円。住民税非課税世帯となることができます。

 

歓喜する高齢夫婦。しかし「年金211万円の壁」と知られていますが、これは大都市などの1級地の話。居住地の「級地」は生活保護による扶助を行う際に、地域ごとの物価や生活水準の差などを、保護の基準額に反映させることを目的に、3パターンに分かれています。大都市などの1級地は211万円がボーダーラインですが、中核都市などの2級地は203万円、それ以外の3級地は193万円。つまり居住地によって「203万円の壁」や「193万円の壁」が存在するということです。

 

たとえば先ほど、住民税非課税世帯となり喜んでいた夫婦。住民税非課税世帯の基準が203万円になっている、郊外の老人ホームに入居することになったとしましょう。すると「年金の壁」を超えることに。税金が引かれるようになり、結果、“年金減額”というまさかの事態に思わず言葉を失うことになります。

 

――う、うそだろ。対策をちゃんとしたのに

 

またこのような優遇措置の基準は、情勢に合わせてコロリと変わるもの。年金をもらっている間、「211万円」が基準であり続けるとは限りません。

 

年金を減らして手取り収入を増やすという対策は、その効果があまりに不透明。リスクも加味して、よく検討する必要があるといえるでしょう。

 

[参考資料]

厚生労働省『年収の壁・支援強化パッケージ』

日本年金機構『年金の繰上げ受給』

厚生労働省『2021年 国民生活基礎調査』