ある日突然、愛する家族の介護が必要になったら……素早く冷静な判断ができる、という人は多くないでしょう。こうした“不測の事態”に適切な対応をとるためにも、身内が元気なうちにやっておきたいことがあると、FP Officeの片根竜哉FPはいいます。愛する妻を介護するため早期退職を決断したある男性の事例をもとに、看護師の経験もある片根氏が解説します。
年収1,300万円、預貯金4,500万円の55歳“勝ち組”サラリーマン「愛する妻のため」早期退職→5年後“子が心配するほど”老けたワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

愛する妻に異変が…徐々に崩れていく“これまでの日常”

【Aさんの状況】

Aさん:60歳/東京の有名大学卒業/大手メーカー:部長/年収1,300万円(手取り70万円/月)

妻:62歳/専業主婦

長男:31歳/会社員/市外に妻と子2人の4人で戸建て居住

次男:28歳/公務員/市内の同じ敷地内に妻と子の3人で戸建てに居住

 

預貯金:2,500万円

住宅ローンの残債:なし

 

Aさんは、東京の有名大学卒業後、大手メーカーに勤務。海外赴任や新プロジェクトのリーダーを経験し、現在は部長職についています。仕事一筋の生活で、炊事洗濯等、家庭のことはすべて妻に任せていました。

 

子どもは2人。Aさんは仕事で忙しいながらも、子ども達と旅行したり遊んだりして過ごすこともありました。もっとも、仕事が多忙なため子育ての大半は妻が担っていました。子ども達も成人し、家を出てそれぞれの家庭を築いています。

 

そんなAさんが55歳、妻が57歳のある日。Aさんが帰宅すると、妻から「家の鍵をなくしてしまった」「どこにあるのか」と言われました。Aさんは、妻が忙しくてどこかに落としてきたり忘れてしまったのではないかと思い、妻と一緒に鍵を探しました。

 

すると寝室にある小物ケースから発見。「これから気を付けるように」と妻に伝えて、その日は終わりました。

 

しかし、それから2週間後にまた、妻から「家の鍵をなくしてしまった」「どこにあるのかわからない」と言われたのです。仕事が多忙であったAさんは、「また? なんでそうなるの?」と妻を責めることしかできませんでした。Aさんは、怒りながらも妻と鍵を探すと、鍵は玄関の小物ケースのなかにありました。

 

Aさんは、妻が不注意を繰り返すことに対して怒りがあったのですが、その時ふと思い出しました。妻が、鍵を無くすことだけでなく、孫の運動会の出来事が覚えられなかったり、同じことを何度も尋ねたりすることが増えてきていたのです。

 

Aさんは急いで有給を取り、妻と病院に行きました。そこで妻が初期のアルツハイマー型認知症であることが判明したのです。Aさんは、自分が家のことをなにもしなかったせいで妻に重い負担がかかり、認知症になってしまったのではないかと、自己嫌悪に苛まれました。