頭金を入れて住宅ローンを組もうとするも…
<事例>
夫Aさん 40歳 会社員 年収700万円
妻Yさん 40歳 パート 年収110万円
長女 13歳
次女 11歳
貯蓄額 1,500万円
購入予定の住宅 4,500万円
Aさんは40歳の会社員です。これまで賃貸マンション暮らしでしたが、娘2人が大きくなり手狭になったため、新築の戸建てを検討しています。ハウスメーカーでの注文住宅は土地込みで7,000万円以上であるため、安い建売住宅を中心に探しています。値段は4,500万円程度と注文住宅よりはるかに安くなるのが魅力です。
Aさんは昨年父親を亡くし、自分が受取人となっていた生命保険金1,000万円を受け取りました。それまで思うように貯蓄が進んでいなかったAさんにとってはありがたいお金でした。
「このお金はマイホームの費用として大切に使おう」と決めていたため、1,000万円全額を自己資金に入れて、3,500万円の住宅ローンを借りる計画にしました。35年返済として毎月の支払いは8万9,000円程度。いまの家賃よりも安くなる計算です。
ところが、その旨を販売会社に紹介されたFPに伝えたところ、次のように言われます。
「いまは金利が安いのでフルローンにするのはどうでしょうか。お父様が残してくれた大切なお金は資産運用に回し増やしてみてはいかがでしょう」
FPが言うところによると、
・フルローンにすることで住宅ローン減税を多く受けられる
・住宅ローンの利息よりも減税分のほうが金額が大きい
・父親からの1,000万円は老後のために増やす
ということでした。なるほど!と納得したAさん、すっかりその気になりました。資産運用として提案されたのが「外貨建て終身保険」。一時金で米国ドルに両替し、老後に解約するまで運用するという保険商品です。もし為替がいまのままだったら、70歳時には確実に原資が増えているという説明でした。
妻Yさんは、資産運用は必要ない、自己資金を入れて住宅ローンの借り入れを少なくしようと反対したのですが、Aさんは「オヤジの残したお金だから大切に増やしたいんだ」と言って、住宅を契約する前にその生命保険を申し込みしました。
手元に残ったのは500万円の貯蓄だけ。「これだけあれば十分だろう」とAさんは言います。不安に思った妻のYさんは別のFPの意見を聴くことにしたのです。住宅営業マンから紹介されたFPにすっかり心酔している様子の夫のAさんは、「違うFPの話などいらない」と煩わしそうにしていました。
今後の10年間でも1,500万円では足りない…別のFPからの意見を聞いて絶望
新しいFPはご夫婦の事情を聴くなり、気まずそうに言いました。
「7年後には現金が失くなりますが、どのような計算で1,000万円を保険に入れたのですか……」
家計を計算していくと、5年後には火災保険の更新があり20万円ほどの支出があります。防蟻処理に25万円程度。さらに10年後には屋根と外壁の塗り替え、エアコンや給湯器の交換、太陽光発電のパワーコンディショナー交換などがあります。そして2年後には長女が高校入学、4年後に次女が高校入学、5年後に長女が大学進学、7年後に次女が大学進学です。
「今後のたった10年間でも1,500万円では足りません」
ショックを受けるAさん。
「申し込みしたばかりなので保険を解約したら1,000万円が戻るのでしょうか」
「いえ、戻りません。設計書を見る限り、解約返戻金は払込保険料の8割ほどに下がります。ここからさらに解約控除や市場価格調整という手数料が差し引かれるため、大幅に少なくなります。老後に解約するときも、為替が円高に振っていたらドル建てでは増えていたとしても両替するときに1,000万円を割り込むかもしれません」
「保険から貸し付けを受けるというのはどうでしょうか」とAさん。
「保険の契約者貸付には高い金利が設定されています。自分のお金を使うのに利息を払うのは損でしかありません」とFP。
妻のYさんが口を開きます。「いまさらですが、どうするべきでしょうか」
「いま手持ちの500万円に貯蓄を積み上げていくことが優先です。しかしいまのペースでは貯蓄は思うように進まないでしょうから、奧様が扶養の範囲を外れて年収を増やすことが必要です。それでも足りない場合には、損失を覚悟で生命保険を解約するしかありません」
「FPによって言うことがまったく違うのはなぜなんだ……前のFPは、妻はいまのままの仕事でいい、生命保険でお金を増やすので将来も安心だと言っていました」と夫のAさんが言います。
「申し上げにくいのですが、自分が売りたい生命保険を魅力的に見せるような話の組み立て方だったのかもしれませんね」
FPのその言葉に、Aさんは絶句しました。