日々時間に追われ一生懸命働いていると、「老後は優雅に暮らしたい」と考えている人も多いのではないでしょうか。しかし、理想の老後を手に入れるためには、あらかじめいくらお金がかかるのか試算しておくことが重要です。しかし、その試算内容に“見落とし”があると、「理想の老後」が一転、破産危機に陥る可能性があると、FP Office株式会社の中山梨沙FPはいいます。具体的な事例を交えて詳しくみていきましょう。
年金月34万円「自立型老人ホーム」入居で“悠々自適な老後生活”が一転…“夜間警備のバイト”に通う75歳・元銀行員の嘆き【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

入居から15年…Aさんの身に起こった“まさかの事態”

いざ住んでみると、予想どおり部屋は綺麗でスタッフも優しく、食事もおいしい。施設内のプールやジムでは元気な仲間も見つかり、幸せな日々がスタートしたはずだった。

 

しかし……。Aさんは入居してすぐ、“重大な見落とし”をしていたことが判明した。試算で前提としていた利用料の月額40万円はあくまで基本料金であり、施設内のサービスを利用するには追加で料金が発生するというのだ。

 

とはいえ、楽しい生活を手放したくないAさん。「まあ、どうにかなるだろう」と高をくくった。

 

またしばらくして、ひとり息子から久しぶりに連絡が入った。「おれ、結婚することになって……。実はもうすぐ子どもも生まれるんだよね」

 

苦労して育てた息子の結婚と孫の誕生に、感慨もひとしお。Aさんは喜んで、結婚資金200万円と孫のための資金として100万円を援助した。

 

75歳になり、予想以上に残高が減ってきたことに焦りを感じたAさんは、「ちょっとまずいかもしれない」と試算し直してみた。すると、衝撃の事実が発覚した。

 

<65歳以降(実態)>

・施設内のサービスを利用するために、基本料金+毎月6万円の追加料金が発生。

……月額不足額:34万円-46万円=▲12万円

→▲12万円×12ヵ月×10年(65歳~74歳まで)=▲1,440万円

 

+息子結婚資金200万円、孫への援助資金100万円

・75歳時点の手元資金:2,400万円-1,440万円-200万円-100万円=660万円

 

⇒これからも月額46万円(年金▲12万円)を続けるとすると、5年もたない。

 

90歳まではこのまま暮らしていけるだろうと予測していたものの、なんと、80歳までに資金が枯渇することが判明。

 

しかし、施設での悠々自適な暮らしに慣れてしまったAさんは、ここから離れることを決断できなかった。さらに、オーナーが知り合いであることも、転居を決断できない理由のひとつだった。困り果てたAさんは苦肉の策として、夜間警備のアルバイトを始めることにしたという。

 

いざはじめてみると、予想はしていたが75歳の体力で続けるのには無理がある。周りには「老化防止のため」と強がっていたものの、アルバイトへ行くたびヘトヘトに。休日は体力回復のため、日課のジムスペースにも通わなくなった。

 

「俺はいったいなんのために働いているんだ……こんなことなら身の丈に合った施設に入っておけばよかった。あぁ、自宅が恋しい。売るんじゃなかった」

 

アルバイトをはじめて数ヵ月後、Aさんはついに息子へ相談したという。

 

一度定着した生活水準を落とすことは、想像以上に難しい。では、Aさんがこのような事態に陥らないためには、どうすればよかったのだろうか。