今年6月末、政府税制調査会は「給与所得控除の見直し」についての言及を含んだ答申を岸田首相に提出しました。これに対し国民からは「サラリーマン増税ではないか」と怒りの声が上がっています。では、今回の「見直し」は給与所得者にどのような影響をおよぼすのでしょうか。FP Office株式会社の清水豊氏が解説します。
年収500万円なら「年29万円」の税負担増…会社員が直面する「サラリーマン増税」という悲しい現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

政府「会社員からもっと税金をとろう」…“サラリーマン増税”検討が進む背景

2023年6月30日、「政府税制調査会」は、中長期的な税制のあり方を示す答申を岸田首相に提出しました。悪化する財政状況を踏まえて、給与や退職金にかかわる税制を“是正”し、歳出相応の税収を確保することなどを目的としています。

 

しかし、世間では『“是正”といいつつ、結局は増税なのだろう』という声が相次いでいます。そこで、今回提出された答申の内容をもとに、給与所得控除をはじめとする税制がどのように変わるかみていきましょう。

 

現行の税制はどうなっているの?

2023年現在の給与所得控除の金額は、下記のように定められています。

 

出所:国税庁HP
[図表1]給与所得控除の速算表 出所:国税庁HP

 

年収が500万円の方を例に考えてみましょう。上記(図中4段目)をもとに計算すると、現行の制度では、給与所得控除は500万円×20%+44万円=144万円となり、収入に対しする控除額は約30%となっています。

 

基礎控除(48万円)と社会保険料控除(年収の15%で計算)のみで所得税・住民税を計算すると、所得税は13万5,500円(復興特別所得税含まず)、住民税は23万3,000円となり、(※住民税10%として計算)税額はあわせて36万8,500円です。

 

改正後、給与所得控除は“わずか3%”になる可能性も

もし、俗にいう“サラリーマン増税”が行われた場合の給与所得控除の割合・計算式はまだ明らかになっていません。しかし、税制調査会の答申によれば、「会社員の必要経費にあたる部分は給与収入の約3%程度と試算されており、現在は手厚い状態にある」としています。

 

つまり、サラリーマンにとって考え得る最悪のシナリオは、税制調査会が考える「実際の支出分」である「約3%」の水準にまで給与所得控除を下げられてしまうケースです。仮に給与所得控除が年収の3%となった場合、どれだけ支払う税金が増えるのでしょうか。

 

先ほどの例(年収500万円)で考えると、給与所得控除が3%の場合、控除額はわずか15万円です。仮に給与所得控除額を15万円として、上記と同じ条件で所得税、住民税を計算してみると、所得税の金額は29万6,500円、住民税の金額は36万2,000円です。合計すると65万8,500円と、なんと29万円も増えてしまいました