2. 無価値不動産に対して取り得る処分方法について各相続人の意思を確認する
(1)無価値不動産の相続
不動産の相続には、相続税等の費用負担のほか管轄役所への届出等の各種手続上の負担が生じることに加え、相続して以降も、管理費や固定資産税等の費用が継続的に発生します。特に、山林や原野等の特殊な不動産は、一般に収益化が難しい一方、面積が広大で高額な管理費が必要となることがあり、保有するだけで収支が赤字となる例も少なくありません。
そのため、従前は、実質的に無価値と評価される不動産は、相続人間においてその処遇について争いになり、あるいは事実上放置されることにより、被相続人の名義変更がされないまま長期間が経過し、現在の所有者を特定することが困難となるものが多くありましたが、後述の令和6年4月1日施行の改正不動産登記法により、不動産の名義変更等の各種手続を放置する行為に対し罰則が科されるようになります。
このように、被相続人の遺産に含まれる不動産が実質的に無価値と評価される場合でも、当該不動産の相続人や相続しない場合の処遇について、相続人間において速やかに決定する必要があります。
(2)無価値不動産の処分の方法
①第三者へ売却または寄附をする
相続人らにとっては運用が困難で実質的に無価値と考えられる不動産であっても、民間の法人等において、一定の有用性があるものとして当該不動産の取得を要望する者がいる場合があります。また、自然保護のために有用な土地や市民の憩いの場として活用しやすい土地であれば、自治体が寄附を受け入れてくれることもあります。
いずれにしても、当該不動産が実質的に無価値と評価される場合にも、管轄する役所や不動産の専門家等にも相談の上で、第三者への売却あるいは寄附の方法を検討することが望ましいです。
②相続放棄をする
被相続人の遺産に含まれる不動産が、売却先や寄附先を見付けることも困難な、有用性に乏しいものである場合には、相続放棄(民915①)をすることも考えられます。
この方法であれば、寄附等の手続を踏まずとも、相続放棄をした相続人は、初めから相続人でなかったものとみなされますので、原則として相続税等の費用の負担をする必要もありません。
しかし、相続放棄は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行わなければならない上、相続放棄をした時に当該財産を現に占有していた場合は、自己の財産におけるのと同一の注意にて保存する義務が生じます(民940①)。
また、相続放棄をするということは、不動産に限らず被相続人の遺産全てについて相続する権利を失うため、不動産以外の財産について相続したいものがある場合には、当該方法をとることはできません。
③国庫に帰属させる
実質的に無価値な土地を相続した場合には、令和5年4月27日施行の「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に基づき、法務大臣への申請により、当該土地を国庫に帰属させる方法があります(国庫帰属2①②)。
この方法は、相続等によりその土地の所有権の全部または一部を取得した者(共有の場合は、共有者全員)が対象とされ、相続放棄のように財産の保存義務も負いません。ただし、この申請は、対象の土地が、建物の存する土地や境界が不明な土地その他の所有権の存否、帰属または範囲に争いがある土地等に該当する場合には、することができません(国庫帰属2③各号)。
また、当該申請に係る不動産が、崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限ります。)がある土地のうちその通常の管理に当たり過分の費用または労力を要するものや、土地の通常の管理または処分を阻害する工作物、車両または樹木その他の有体物が地上に存する土地等に該当する場合、法務大臣に申請を承認されないこともあります(国庫帰属5①各号)。
さらに、申請が承認されたとしても、その管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭を納付する必要があります(国庫帰属10)。
このように、国庫へ帰属させることができる土地は限定的であり、かつ負担金が高額に及ぶ可能性もあります。相続人間においては、このような方法が存在することに留意し、他の方法による費用負担も含めた慎重な検討が必要です。
3. 不動産について相続登記を行う期限に留意する
被相続人名義の不動産の相続において、かつては、相続人名義への変更登記は、法令上の義務ではありませんでした。
しかし、令和6年4月1日施行の改正不動産登記法(令和3年法律24号による改正後の不動産登記法。以下同じ。)により、不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者(遺贈による場合も含みます。)は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正不登76の2①)。
そして、正当な理由なく登記の申請を怠った場合には、10万円以下の過料に処される場合があります(改正不登164)。この相続登記義務は、新法の施行日前に相続の開始があった場合についても適用され、既に相続開始を知っていた場合には、新法の施行日から3年以内に登記をする義務が発生します(令3法24改正不登附則5⑥)。
また、遺産分割協議が調わずに相続登記の期限を迎えてしまう場合も想定し、同法では、前述の相続登記に代わり、あらかじめ登記官に対し所有権の登記名義人について相続が開始した旨および自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることで、前述の相続登記義務が履行されたものとみなされることとなりました(改正不登76の3①②)(この登記を「相続人申告登記」といいます。)。
相続人申告登記は、相続人全員で行う必要はなく、各人で行うことが可能です。なお、相続人申告登記の後に遺産の分割をした際は、当該遺産分割によって所有権を取得した者には、当該遺産分割の日から3年以内に所有権の移転登記申請をする義務がある(改正不登76の2②)ことにも注意が必要です。
一般に、被相続人の死亡の事実や遺産の一切が不明な場合等の例外的な場合を除き、被相続人が死亡した時点が相続登記義務の起算点となることが通常です。相続人としては、相続登記に期限があることを意識し、遺産分割協議が速やかに調わない可能性も考慮して、余裕をもって、これらの手続を検討することが望ましいです。
〈執筆〉
我妻大輔(弁護士)
2013年3月 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
2015年3月 慶應義塾大学法科大学院卒業
2017年1月 弁護士登録(第69期)
2019年10月~ 慶應義塾大学大学院法務研究科 助教
2020年 東京弁護士会常議員 日本弁護士連合会代議員
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)
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