住宅購入時、自己資金を入れて月々の返済額を減らすか、それともフルローンにしてより多くの住宅ローン減税を期待するか、悩む人は多いでしょう。住宅ローンの低金利が続いている昨今、「フルローンにして減税を享受し、手持ちのお金は資産運用に回すべき」といった住宅営業マンやFPからのアドバイスをよく見かけます。一見納得しそうになりますが、本当に問題ないのでしょうか。本記事ではEさん夫婦の事例とともに、住宅購入時の注意点について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収810万円の40代夫婦…父の遺産1,000万円で「外貨建て終身保険」に加入、フルローンで「4,500万円の戸建て」を購入の悲惨な末路【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「フルローン+手持ちの現金を資産運用」は安全なのか?

あえてのフルローンにし、手持ちの現金で資産運用をすることには一定のリスクが存在します。事例のAさんのように生命保険で資産運用を行う場合は、特に大きなリスクがあります。

 

先述のように繰上げ返済や、建物のメンテナンスや教育費のために大きなお金を用意する必要に迫られた時、手元の現金がないのは大問題です。現金を調達するためには生命保険を解約するしかありませんが、それが上手くできないことがあるのです。

 

生命保険の商品内容にもよりますが、契約から一定期間、解約返戻金は払い込んだ保険料の総額を下回ります。

 

さらに昨今多い「外貨建ての生命保険」の場合、為替の変動により日本円に両替した解約返戻金も変動してしまい、「いま解約すると損」という状態になるかもしれません。

 

また一時払いの生命保険の場合、解約する時に解約控除や市場価格調整という名前で解約時の手数料が差し引かれてしまいます。契約期間が短いほどその手数料の金額が大きくなるため、解約返戻金がかなり目減りします。これでは解約したくても損をするのでできません。

 

このようにすぐに現金化することが難しい状態を「資金の流動性が低い」と呼びます。生命保険のように流動性が低い資産運用は、何十年も先に使う老後資金の準備に向いています。また、つみたてNISAなどをはじめ多くの資産運用の金融商品も長期の運用で成果を上げる考え方であるため生命保険ほどではないとしても価格変動をするため、急な現金化が難しい(=流動性が低い)と言えます。

 

資産運用の多くは数十年先の老後資金のためのものと考え、途中の解約(売却)を前提とするべきではないでしょう。

住宅購入時はリスクを複数重ねるべきではない

住宅購入だけでも金利の変動リスクを抱えることになります。そのうえに、さらに資産運用の価格変動リスクや為替変動リスクを背負うという行為を、自分の家計のポテンシャルで耐えられるものなのか冷静に考えるべきです。少なくともその2つを同時にスタートするのはリスクが高すぎます。

 

一生には子供の教育費や自動車の買い替え、建物のメンテナンスや設備の交換、火災保険などの大きな支払があります。それらの一生の支出額とタイミングを見定めながら、慎重に住宅を購入し資産運用を計画する必要があるのです。

 

資産運用は家計のなかで住宅や教育費ほど優先される緊急支出ではありません。しないならしないでも済むはずです。そんな資産運用に使えるお金の余裕が我が家でどのくらいあるのかは、住宅ローンの返済が始まってから数年かけて家計の様子を見てからではないと確実なことはわからないはずです。

 

住宅を購入するときに住宅営業マンやFPなどに煽られ、資産運用という名前の「衝動買いの浪費」をしてしまうことがないようにしてください。

 

つみたてNISAではインデックス投信で17%、アクティブ投信で20%程度がわずか1年で売却されています。長期運用のための制度でありながら解約してしまうのは、ライフプランと家計の見通しが甘いという側面があるでしょう。資産運用については、住宅を購入し住宅ローンの毎月の返済に慣れてから、じっくりと検討することをおすすめします。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表