住宅購入時、自己資金を入れて月々の返済額を減らすか、それともフルローンにしてより多くの住宅ローン減税を期待するか、悩む人は多いでしょう。住宅ローンの低金利が続いている昨今、「フルローンにして減税を享受し、手持ちのお金は資産運用に回すべき」といった住宅営業マンやFPからのアドバイスをよく見かけます。一見納得しそうになりますが、本当に問題ないのでしょうか。本記事ではEさん夫婦の事例とともに、住宅購入時の注意点について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収810万円の40代夫婦…父の遺産1,000万円で「外貨建て終身保険」に加入、フルローンで「4,500万円の戸建て」を購入の悲惨な末路【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

自己資金を多く入れるデメリットとは?

自己資金を多く入れるデメリットはあるのでしょうか。住宅ローンの借入額を抑えることができ支払う利息が少なくなるので、デメリットはないように思えますが、実は存在します。

 

・手元の現金が少なくなる

・減税できる額が少なくなる

 

この2つです。減税できる額が少なくなるのは前述のとおりです。

 

手元の現金が少なくなるのは、ライフプラン上、大きなリスクです。持ち家の場合、建物のメンテナンスや設備の交換が必要になります。それがおよそ10年~15年ごとに待ち構えています。子供の教育費、特に大学進学費用も必要かもしれません。地方の多くの人にとっては自動車の買い替えも7年~10年ごとに必要になります。しかも夫婦で2台所有することが多いでしょう。

 

これらの支出に対応するための貯えまでも、住宅購入の自己資金に入れてしまうとどうなるでしょうか。あらたにローンを借りて支払うことになります。住宅ローンの利息を抑えるために自己資金を入れたはずなのに、住宅ローンよりもはるかに高い金利の自動車ローンを借りるなどという本末転倒なことが起こります。

 

また、もし変動金利が上昇したら、一部繰上げ返済をすることがリスク回避のために必要になります。そのための原資がないこともリスクです。住宅購入の自己資金は、これからの支出を緻密に計算し、必要な金額を手元に残したうえで支払うべきです。

 

そう考えると会社員の多くの世帯では、たとえ1,000万円の貯蓄があっても、諸費用として数百万円以上の自己資金は入れられないと思います。

フルローンのデメリットとは?

フルローンのデメリットを見ていきましょう。

 

・将来、借り換えが難しくなる

・保証料や金利が高くなることがある

・金利が上昇すると毎月の返済額が高くなる(あるいは利息の割合が大きくなる)

 

特に「借換えが難しくなる」というのは深刻です。最近「金利のある世界」という言葉がSNSなどでもトレンドワードに上がっています。短期金利の上昇とそれに伴う変動金利の上昇が現実化しつつあるため、毎月の返済額が上昇する(あるいは利息の割合が高くなる)可能性があります。そうなると住宅ローンの借換えを検討する人が増えます。

 

しかし住宅ローンの借換えは容易ではありません。新築購入時と異なり、借り換え時の金融機関の審査は物件の担保価値を厳しく見ます。担保価値に対する融資額の割合を融資率と呼びますが、この融資率は金融機関によって異なり、100%とするところが多くあります。つまり、担保価値とイコールの金額までしか融資してくれないということです。特に金利の安いネット系銀行は担保価値を重視しているため、新築時に諸経費分まで含めて住宅ローンを借りた場合、融資率オーバーのため融資審査は否認されるのが通常です。

 

そのため、フルローンで住宅ローンを借りた場合は、金利が上昇し借換えをするときには自己資金使って繰り上げ返済を行い、融資額を下げる必要があります。この金利上昇にともなう繰り上げ返済をいつ実行することになるかが分からない以上、手元にいつでも使える現金を用意しておく必要があるのです。「手元に自己資金があっても、あえてフルローン」でなければ、金利がある世界が間近に迫っている日本ではフルローンは大きなリスクがあると言えます。