日々、私たちの健康を支える病院。「医師は高収入だというし、病院も儲かっているのでは?」と考える人も多いでしょう。しかし現実はその逆で、日本の医療機関はいま、深刻な赤字経営に追い込まれていると、小児科医の秋谷進医師はいいます。複数のデータをもとに、その原因について詳しくみていきましょう。
“崩壊寸前”の医療現場…7割超の病院が「赤字経営」の理由【医師が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の病院を「破綻寸前」に追い込んだ新型コロナ

では、どうして日本の病院経営はコロナで「破綻寸前」にまで追い込まれたのでしょうか?それは、みなさんが想像する以上に、医療機関にとって新型コロナによる負担は大きなものだったため、といえます。

 

非常に高い感染力、長い潜伏期間、高齢者を中心とした高い死亡率……。治療薬もワクチンもないなか、新型コロナウイルスは我々にとって「脅威」以外のなにものでもありませんでした。

 

こうした“打つ手立てのない脅威”から患者さんを守るために、医療機関はあらゆる感染防御手段が講じました。全身を覆う防護服や通気性の悪いN95マスク、フェイスシールドの着用はもちろんのこと、非感染者との導線を分けるなど、コストと時間をかけて徹底的に非感染者を守りました。

 

そこに追い打ちをかけたのが、「病院への受診控え」です。入院・外来ともに一気に患者が減少し、「コロナに罹りたくないから(病院に来たくないので)、なるべく長く薬を処方してほしい」という患者さんもいらっしゃいました。

 

さらに、医療関係者がコロナに感染したために手術が中止・延期となったり、新型コロナ患者のために病床を空けなければいけなかったりと、コロナはさまざまな側面で医療経営を悪化させました。

そして露呈された、保険診療の「限界」

しかし、冒頭で述べたように、コロナにかかわらず、そもそも病院は赤字経営が半数以上。この“異常事態”の根底には、「保険診療の限界」があるのではないかと考えられます。

 

保険診療では、すべての医療行為に対して「〇〇の患者を見たら〇〇円」「こういう処置をしたら〇〇円」「こういう手術なら〇〇円」などと、国により細かく値段が定められています。

 

しかし、医療行為の中身は千差万別です。その患者さんが軽症でも重症でも、医師が適当な診察を行ってもじっくり話を聴き丁寧に診察を行っても、値段は変わりません。そのため、重症患者を診ることの多い大学病院や大病院、不採算部門を切り捨てられない自治体病院などは、人件費をはじめとする医業費用がかさんでいます。

 

[図表3]は、公立病院と私立病院における黒字割合の推移をみたものです。

 

出所:全国公私病院連盟「病院経営実態調査報告」
[図表3]私的病院と自治体病院の黒字病院割合の推移 出所:全国公私病院連盟「病院経営実態調査報告」

※ 自治体病院:都道府県・政令指定都市・市町村・組合、私的病院:公益法人・社会福祉法人・医療法人・個人を示す。

※ 自治体病院の不採算部門等の医療に対し、地方公営企業法に基づき地方公共団体が負担すべきものとされている負担金等は総収益から除いて仮定計算を行っているため、法令に基づく病院決算時点での黒字・赤字とは異なる。

 

ここに保険診療の限界があります。つまり保険診療ではある程度儲けの“上限”が見えてしまっているのです。そんななか、政府はどんどん保険診療の“引き下げ”をすべく動いています。

 

ここまでみてきたように、いまの日本の医療は、「じっくりと一人ひとり真面目に話を聞く、いい病院ほど儲からない」……そんな歪んだ現状に陥っています。誰しも善意だけでは食べていくことはできませんが、誰も好き好んで破産するはずがありません。

 

この深刻な状況は、一刻も早く解消されてほしいものです。

 

 

秋谷 進

小児科医