1LDK・5,000万円の中古タワマンの購入を決断
不動産会社の営業から勧められた物件は、中古の1LDKで価格は約5,000万円。35年の住宅ローンであれば購入可能といわれ、Tさん夫婦は恋人同士に戻ったような気分で購入を検討しはじめました。
もし、タワマンを購入するとした場合、2人が入社してから、コツコツ貯めた貯金は諸費用等にあて、妻が連帯保証することで、4,890万円(金利1.5%、35年)を借り、毎月の支払いは15万円です(知るぽると毎月返済額別借入額の目安表より)。
住宅ローンの別に管理費が1万5,726円と修繕積立金が1万2,305円で月に約3万円かかり、住宅ローンと合わせて、18万円です(平成30年度マンション総合調査結果)。
Tさん夫婦は、貯蓄ができなくなる可能性がありますが、お互いの両親の援助が少し期待できること、勤めている会社は年齢に関係なく仕事の成果に応じて給与に反映されることを加味し、不動産会社が勧める物件を購入しました。
毎月の返済額は超ギリギリ、背伸びした夫婦に想定外の出来事が…
タワマンを購入したTさん夫婦。当面は2人きりの生活を満喫することを希望していました。しかし、想定外の展開に。
妻が体調を崩し、病院で検査したところ、診断は子宮筋腫。すぐに入院、手術が必要となりました。妻は始めは少しだったという痛みを長いあいだ我慢し続けたことから、発見したころには、筋腫が酷く悪化した状態でした。術後もなかなか体調が全快せず、会社を休みがちになりました。
会社を休んでいるあいだは、傷病手当金を申請しましたが、傷病手当金は妻の給与の約3分の2です。医療費がかかり、食事生活を健康的なものに改めたことから、残しておいた貯蓄も約1年後には底をつきそうです。このままでは住宅ローンが払えなくなります。最悪売却しなければならなくなるでしょう。
タワマンへ引っ越す前のTさん夫婦は、家賃10万円の賃貸マンションに住み、月の生活費を20万円におさえ、残りの8万円を貯蓄にまわしてきました。タワマンに引っ越すとなると、いままでの生活を続けても貯蓄する余裕はなかったのです。
2022年の総務省の家計調査年報によると、40歳未満の消費支出額(2人以上の世帯)は26万9,094円です。Tさん夫婦は節約して過ごしてきたことがわかります。しかし、憧れのタワマンに住めたとしても、いままで以上に家計を切り詰めて過ごさないと貯蓄できなくなるだけでなく、今回のように病気やケガをして働けなくなった場合、生活がまったく成り立たなくなります。これが今回よりももっと治療費が大きく、治療期間が長引くようなものだったら……。
さらに妻の病気が完治したとしても子供を授かると、どうなるのでしょうか? 妊娠すると、定期健診や準備に想定外のお金がかかるだけでなく、妻が産前産後休業、育児休業に入れば給付金はでますが、100%ではないため、家計は赤字になり、破綻する可能性もでてきます。
身の丈に合った資金計画を
万一のことを考えてもタワマン購入は時期尚早であったTさん夫婦。妻の病気は気づきのきっかけに過ぎず、もともとの資金計画に無理があったといえます。
背伸びして購入した場合、高級マンションに住み、妻の収入が減ったことで必要以上に節約を強化した生活が、憧れの生活となるのでしょうか。外見だけ見栄を張ったとしても、生活が破綻しては意味がありません。
「欲は身を失う」とならないために、本来、まだ20代であるTさん夫婦は、将来の購入を目指して収入を増やし、タワマンに見合う「パワーカップル」になってからと目標を設定しなければならなかったのです。
<参考>
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表