新築時のローンは「ウェルカム」だった銀行の態度の変わりように驚く
恵美さんは、離婚を機に自宅とローンの名義を自身に一本化できるかどうか、不動産会社に勤めていた経験のある元上司に相談してみたそうですが、「ペアローンで買ったなら名義の一本化は無理だろうね。売却して、財産分与すれば?」と軽くあしらわれてしまったとのこと。
夫婦2人で暮らしている家であれば売却するのも1つの案ですが、家は、母と祖母と3世帯一緒に暮らすために正人さんと恵美さんの共有名義で建てたものですし、そもそも土地は母の持ちものです。売却してしまえば、母や祖母の住むところもなくなってしまいますから、その選択はあり得ませんでした。
あちこちの銀行にも問合せをしました。まず、いま借入をしているネット銀行に連絡をしたところ「名義と住宅ローンの一本化はできませんね」とアッサリ。別の銀行なら借り換えということで相談に乗ってくれるかもしれない、何件かにコンタクトを取ってみましたが、どこも「難しいですね」とけんもほろろ。
新築時にペアローンを契約するときは、どの銀行も前のめりになって「ウェルカム」といった雰囲気だったのに、その態度の変わりように驚きました。
離婚による名義変更について銀行は取り合ってくれないことがわかり、恵美さんは途方に暮れてしまいました。
離婚を原因とする共有名義の自宅と住宅ローンの名義の一本化に関して、引き受けてくれる銀行を自力で見つけるのは容易ではありません。
育休前のポジションに復帰できた点が高く評価され、無事に名義変更が完了
その後恵美さんには個人情報に関する書類を何種類も用意してもらい、筆者も銀行と粘り強く交渉を重ねた結果、恵美さんが育休前のポジションに復帰して収入が安定している点や、ペアローンの返済遅延やほかの借り入れもない点が評価され、なんとか借り換えの事前審査の承認が下り、名義変更への道筋がみえました。
正人さんは所有権を持ち住宅ローンも払っていましたが、その自宅には数えられるほどしか戻ってきておらず、「住んでいる」というより「週末に泊まりにいく場所」という感覚に近かったといいます。
自宅とローンの名義を恵美さんに一本化することで、正人さんはローン返済から解放され、恵美さんは働きながら子育てもしやすい環境を手に入れたことになり、これは夫婦にとって最善の選択だったのかもしれません。
自宅と住宅ローン名義の変更日には筆者も同席しましたが、争わずにとことん話し合いをした結果としての離婚だったため、終始和やかな雰囲気。各々が相手を尊重し、なによりも子どものことを思いやっての決断だったことが伝わってきました。
正人さんは、「来週の麻実ちゃん(長女)の誕生日にはまた帰ってくるね」と爽やかに言い残し、空港へと向かいました。