今回の相談者は、単身赴任をする夫との離婚が決まった山添恵美さん(仮名)。離婚後は自宅とペアローンの名義を自身に一本化したいと考えていますが、相談を持ちかけたすべての銀行で「名義変更はできません」と断られ、途方に暮れてしまいました。離婚による自宅・ローンの名義変更はなぜこうも困難なのでしょうか。持ち家離婚カウンセラー・入江寿氏が解説します。
新築時はどの銀行も“前のめり”だったのに…ペアローンで建てた3世帯住宅の〈離婚による名義一本化〉に35歳・妻、大苦戦のワケ【持ち家離婚カウンセラーが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

離婚は決まったが家の名義変更が進まず、途方に暮れる

今回の相談者は、山添恵美さん(仮名)35歳。共有名義の自宅と住宅ローンの名義の一本化について、不動産会社や金融機関など、あちこち問合せをしたものの、ことごとく断られてしまい、インターネット検索の末に筆者をみつけたのだといいます。

 

2人で筆者の事務所に相談に訪れた山添さん夫婦。離婚することは決まっているのに家のことが前に進まず、悩んでいるようです。

産休・育休を経て夫婦のすれ違いが増える

話を聞いてみると、2人は大学在学中に交際を始め、卒業後それぞれ一部上場企業に入社後は仕事に没頭していたといいます。互いの両親にも公認の仲だった2人は28歳で結婚。新居として恵美さんの実家の近く、総武線沿いに賃貸マンションを借りました。


正人さんは判断力の速さと行動力を認められ、上司から高く評価されていて仕事を楽しんでいました。その後、ヘッドハンティングされてベンチャー企業に転職。ここでもあっという間に頭角を現すことになります。

 

恵美さんが長女を妊娠、出産。育児休暇に入った頃、東京勤務だった正人さんの栃木転勤が決まりました。

 

子育ての大変な時期、近所に母や祖母がいたほうが恵美さんも楽だろうという夫婦の話し合いを経て、正人さんは単身で栃木に移り住むことになりましたが、生まれたばかりの赤ちゃんがかわいくて仕方なく、毎週末自宅に戻って子育てを一緒に楽しんでいたといいます。どこからみても仲の良い夫婦でした。

 

ところがこの頃、平日に正人さんが帰宅して恵美さんに電話をしてみても、子育てに疲れた恵美さんが早くに寝てしまっていて話ができない日々が続き、週末も子供中心の生活になったことで夫婦だけの会話が減って2人の気持ちのすれ違いが生まれ始めていたといいます。

 

その後、母と祖母が住む自宅を3世帯で住む家に建て替えようという計画が持ち上がりました。家族会議を行い、子どものためにも、恵美さんのためにも、仕事で忙しい正人さんのためにも、皆で協力して子育てするべきだ、ということで意見が一致しました。

 

着工から約半年、3階建ての3世帯が住む素敵な自宅が完成します。1階には母と祖母が住み、2階は全員共有の大きなリビング、3階には正人さんと恵美さん、子どもが住むことになっています。高齢の祖母がいるため、1階と2階の間にはエレベーターも設置しました。

 

土地は母のもの、建物は正人さん・恵美さんの共有名義で登記をして住宅ローンを借りました。

 

新居への引っ越しが完了した2ヵ月後、恵美さんは次女を出産します。単身赴任中の正人さんは、相変わらず週末にだけ戻ってくる生活を続けていました。自宅に戻るたびに、子ども達と楽しい時間を過ごしていた正人さんに対し、産後うつと同時に「社会復帰をしたい」というストレスを抱えていた恵美さんは、楽しい時間を過ごせなくなっていました。

 

正人さんは恵美さんが以前のように楽しそうにしていない訳を理解できず、「子育てに疲れているんだろう」程度に考えていました。その後、正人さんの北海道への転勤が決まり、自宅に戻る頻度は2週間に1度に減ってしまいました。

 

2人目を出産してから1年後、恵美さんは職場復帰を果たします。恵美さんは子育てと仕事の疲労から夜も寝落ちしてしまうことが増え、夫婦のコミュニケーションはさらに減ったといいます。正人さんが北海道から帰宅しても、夫婦の会話はほとんどなく、そんな生活を続けて2年目、2人はついに離婚することになりました。