今回の相談者は、ペアローンを組んで品川区にマンションを購入したという30代・男性。妻の「産後クライシス」を発端とする夫婦の不和から離婚が決まり、ローンを自分名義に変更したいと考えていますが、複数の銀行に断られてしまいました。男性はヘッドハンティングで有名企業を渡り歩くエリートであり、年収も1,200万円超あるにもかかわらず、なぜローンの名義変更ができなかったのでしょうか。持ち家離婚カウンセラー・入江寿氏が解説します。
有名企業を渡り歩く年収1,200万円のエリート会社員…離婚による〈ペアローン〉の名義変更に大苦戦のワケ【持ち家離婚カウンセラー相談事例】 (※写真はイメージです/PIXTA)

どの銀行も取り合ってくれなかった「ペアローンの名義変更」

今回の相談者は川崎一則さん(仮名)。某有名企業に勤める36歳のエリートサラリーマン。前職もその前の職場も、そして現在の職場もヘッドハンティングによって入社したという経歴の持ち主であり、昨年の年収は1,200万円を超えています。

 

相談内容は、離婚が決まったため、ペアローンで購入した自宅の名義と住宅ローンの名義を一則さんに一本化したいというもの。一則さん自身であちこちの銀行に問い合わせしたものの、どこでも取り合ってくれなかったといいます。

 

通常、金融機関は離婚によるローンの名義変更については消極的ですが、住宅ローンの残債と一則さんの年収から計算すると名義変更ができる可能性はありそうでしたので、一度会って話を聞いてみることにしました。

ローン返済は2人分、婚姻費用の負担もあり、精神的に追い詰められる

結婚当初は都内の社宅で暮らしていた一則さんと妻・陽子さんの2人。結婚して3年が経った頃、「そろそろマンションを買おう」という話になり、お互いの通勤に便利な品川区のマンションをペアローンで購入しました。

 

新居での暮らしが始まって2年目、陽子さんは子どもを授かり、産休を取って出産したとのことでした。

 

出産前後の女性はホルモンバランスが大きく変化します。主産前の「マタニティーブルー」から出産後の「産後うつ」まで男性には理解できない心身の変化があります。陽子さんの産後クライシスを受け止め切れず、コミュニケーションが不足したことが、夫婦の不和のきっかけではないかと、一則さんは考えているようです。

 

筆者との面談時点で、陽子さんと子どもが家を出ていってしまってから3ヵ月。一則さんは「子どもには一度も会えていません」と、いまにも泣き出しそうな表情をしていました。ペアローンで購入した自宅のローンを2人分払わなくてはならない上、婚姻費用も払っているといいます。にもかかわらず、子どもには会えず、ペアローンを解消しようにも金融機関は耳を傾けてはくれないという状況で、精神的に追い詰められているようでした。

 

唯一、休日のサッカーだけがストレスを発散できる場所だったようですが、こちらも気乗りせず、最近は休みがちになっていたといいます。

 

高年収のエリートが金融機関に断られた理由

当事者からの共有名義・ペアローンの一本化の申し出に、銀行が耳を貸さないのは通例ですが、今回のケースでは、夫の年収も、ローンの返済比率もまるで申し分ありません。また、住宅ローン以外の借入もありませんでした。

 

銀行が何を問題視したかというと、現職の大手有名企業での勤務が、まだ8ヵ月目だったという点です。

 

通常、金融機関は最低でも正社員になって1年以上、というのを審査基準の1つとしています(金融機関によって異なります)。そのため、夫はどの銀行にいっても、「1年は経っていないとね…」と渋い返事をされていたのです。

 

日本の金融機関はどんなに年収が高くても、転職回数の多い人や勤続年数の短い人を好まない傾向にあります。ヘッドハンティングで有名企業を渡り歩く高年収のエリート社員であったとしても、です。

 

そこで筆者は、一則さんにヒアリングの上、職務経歴書を作成し金融機関への交渉を進めていくことにしました。