●WTI原油先物価格は主要産油国の生産調整などを背景に、先月末一時1バレル=95ドル台へ。
●原油高が続いた場合、日米ともインフレ再加速が懸念されるが原油相場に投機の動きもみられる。
●投機の動きには要注意だがEIAはこの先WTIの価格は80ドル台に落ち着いていくとの見方を示す。
WTI原油先物価格は主要産油国の生産調整などを背景に、先月末一時1バレル=95ドル台へ
ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されている原油先物のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は9月28日、一時1バレル=95.03ドルと昨年8月以来の高値をつけました。原油高の要因の1つに、主要産油国の生産調整があり、サウジアラビアは7月から日量100万バレルの自主減産を始め、ロシアも8月から輸出削減(現行日量30万バレル)を実施しています(いずれも12月までの予定)。
また、中国の原油需要が想定外に底堅いことも一因と思われ、米エネルギー情報局(EIA)は、2023年の中国の原油需要について、9月のレポートで日量1,593万バレルと予想しており、1月の1,569万バレルから上方修正しています。さらに、EIAが9月27日に発表した週間の石油在庫統計で、WTIの受け渡し拠点である米オクラホマ州クッシングの在庫が昨年7月以来の低水準となったことも、原油高に拍車をかけたとみられます。
原油高が続いた場合、日米ともインフレ再加速が懸念されるが原油相場に投機の動きもみられる
仮に原油価格の上昇が続けば、2020年から2022年にかけてみられたような米国のインフレ加速が予想されることから、この先、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げや、それによる米国経済および金融市場への影響が懸念されます。また、日本では輸入物価が上昇し、円安が進行した経緯があるため、再び国内物価に上昇圧力が強まり、日々の生活に影響が及ぶことも想定されます。
なお、WTIについて、投機筋の買い建玉を売り建玉で割った「ロング・ショート比率」を確認してみます。一般に、この比率が上昇(買い建玉の割合が増加)すると原油高に、低下(売り建玉の割合が増加)すると原油安に振れやすいとされます。年初からのWTIの価格推移は、ロング・ショート比率の推移とおおむね一致しており(図表1)、足元の原油高は、投機筋の買いが相応に影響していると推測されます。
投機の動きには要注意だがEIAはこの先WTIの価格は80ドル台に落ち着いていくとの見方を示す
そのため、今後は投機筋の売買による一時的な変動率(ボラティリティ)の高まりには注意が必要で、実際、WTIの価格は9月27日以降、高値圏における日中の値幅が比較的大きくなっています。ただ、原油相場を長期的に展望する場合は、基本的には原油の需給動向を確認しておくことが大切です。図表2は、EIAのデータに基づき、原油需給とWTIの価格推移を示したものであり、2023年9月以降はEIAの見通しとなっています。
原油の需給動向について、EIAによると、2024年12月まで極端な原油需給のひっ迫は想定されておらず、やや供給超の状況が続くとの見方が示されています。また、原油価格について、WTIはこの先、1バレル=80ドル台に落ち着いていくとの見通しであり、原油価格が一本調子で上昇するとの予想にはなっていません。これらはあくまで1つの見方ですが、参考になるところが多いと考えています。
(2023年10月3日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『原油高が続けば「日米でインフレ再加速」の懸念…「原油価格」の“行方”は【三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト