(※画像はイメージです/PIXTA)

9月11日の東京債券市場で、新規発行10年物国債(新発10年物国債)の利回りが0.7%を超えました。これは2014年1月8日以来、9年8ヵ月ぶりの高い水準です。新発10年物国債の利回りは、国の「長期金利」の主要な指標となっています。また、そこには政府・日銀の金融政策が大きく関わっています。本記事では、金利と国債の関係、および現在の金融政策について解説します。

2013年以降、「異次元の金融緩和」による低金利が続いてきた

2013年以降、日本では「異次元の金融緩和」という政策がとられてきました。これは、銀行等が保有している国債を買い入れることで、市場に出回っている国債の量を減らし、国債の価格を上昇させるものです。これにより、利回り(=長期金利)が抑えられることになります。また、国債の買い入れと引き換えに、市場に出回っているお金の量が増えることになります。

 

長期金利が低下し、お金の流通量が増えれば、企業や個人が資金調達をしやすくなります。また、銀行の定期預金や債券投資よりも株式投資のほうが儲かるということになり、株式投資の活発化を招きます。これによって景気を刺激するというものです。

 

さらに、異次元の金融緩和には、「円安」を招くという側面もあります。金利が低い円が売られ、米ドル等の金利が高い通貨が買われることになるからです。円安には、海外からの投資を呼び込む効果も期待できるといわれます。

 

これらの効果により「消費者物価指数の上昇率年2%」を達成することが目標とされました。そして、この数値目標が達成された形になったのは2022年4月です(前年同月比2.4%・総務省報道資料より)。2023年1月には前年同月比で4.3%に達しました。また、直近に発表された2023年7月のデータでは前年同月比3.3%となっています。

 

ただし、「目標達成」とはいっても、この間の物価上昇には、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻による燃料、食料等の価格高騰が大きく影響していることを考慮する必要があります。

日銀が金融緩和政策を転換する条件は?

2023年4月に、日銀の総裁が黒田東彦氏から経済学者の植田和男氏に交代しました。植田氏は、物価上昇率の目標が達成されている下であっても、金融緩和政策を当面引き継ぐ考えを示しました。その理由として挙げられるのは、前述したように、今の物価上昇はロシアのウクライナ侵攻による影響が大きいということです。

 

植田総裁は2023年5月19日の内外情勢調査会における講演で以下のように述べています(「金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望」より)。

 

「現在、物価が3%を超えて上昇している主な理由は、需要の強さではなく、海外に由来するコスト・プッシュ要因です。(中略)コスト・プッシュによる物価上昇は、実質所得や収益の下押し要因となるため、家計や企業に負担をもたらすものですが、これを抑制しようとして金融引き締めを行うと、経済や雇用環境を悪化させてしまいます。この結果、家計や企業に別の形で負担が生じるほか、コスト・プッシュ要因が減衰したあとは、一段と低いインフレ率がもたらされます。日本銀行は、賃金の上昇を伴う形で、2%の『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現していくことを目指しています。そのために、金融緩和の継続により経済活動をサポートすることが必要となります。」

 

つまり、物価上昇がロシアのウクライナ侵攻等の外部的要因ではなく、国内の需要が高まることによるものであることが必要であるとしています。そして、この立場は大枠では変わっていないものとみられます。

 

すなわち、もし、現状で「利上げ」ということになれば、企業の資金調達が困難になり、事業・雇用の縮小につながる可能性があります。また、個人の住宅ローンの借入れ・返済等にも影響を及ぼします。したがって、当面の間、金融緩和を継続せざるをえないという考え方です。

 

しかし、他方で、昨今の激しい物価上昇は、「円安ドル高」も絡んで、国民の生活に深刻な影響を及ぼしています。その要因の一つが、アメリカで利上げが相次いで行われたことによって広がった内外の「金利差」です。つまり、ごく大ざっぱにいえば、金利の低い円が売られ、金利の高い米ドルが買われているということです。

 

今回の長期金利上昇は、遠くない将来における日銀の政策転換の可能性を市場が見越してのこととみられます。今後、政府・日銀には、金融緩和を継続した場合のメリットとデメリットのそれぞれに目配りした高度な政策的判断が求められます。

 

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