日本の上位5%といわれる年収1,000万円超の「エリート」たち……退職金も多く、定年後も“余裕の老後生活”を送っていると思いきや、実は「老後破産危機」に陥ってしまう人が少なくないと、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPはいいます。上場企業で部長職を勤めていたTさん(66歳)の事例をもとに、高所得者が老後破産危機に陥る原因と対策をみていきましょう。
年金月30万円、退職金3,200万円で「勝ち逃げ確定」かと思いきや…66歳・元エリートサラリーマンが老後「節約地獄」に堕ちたワケ【FPが警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職後に気づいた妻の「変化」

退職後は、趣味のゴルフを中心に余裕ある生活を楽しんでいたTさん。年に1回は奥様を連れて、夫婦旅行なども楽しまれていました。しかし……。

 

あるとき、奥様の様子がおかしいことに気づきます。綺麗好きの奥様のはずがゴミを溜めるようになり、気づくと家のゴミ箱からゴミが溢れるようになりました。また、家の鍵も頻繁に失くしてしまい、トイレットペーパーもストックがあるにもかかわらず繰り返し購入。服を入れるはずのクローゼットがトイレットペーパーで埋め尽くされるようになりました。

 

友人に奥様のことを話し、「それ、もしかして認知症じゃないの?」と言われ合点がいったTさんは、奥様とともに病院へ。検査を受けたところ、友人の予想どおり「アルツハイマー型認知症」との診断を受けました。

 

アルツハイマー型認知症は症状が進行するため、将来的には老人ホームに入居する必要がありそうです。その場合、月々15~25万円程度かかります。年金は30万円ほど受給予定ですが、そうなると、半分以上が奥様の介護費用として出ていく可能性があります。

 

晩婚のため、定年後も子どもたちの教育資金がかかったことに加え、住宅ローンを繰り上げ返済したTさん。それに加え奥様の介護費用がかかることになり、老後のことが心配になったTさんは、筆者のもとを訪れたそうです。

FPの助言もむなしく、プライドの高さから「再就職」拒否

厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和3年度末における厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は14万6,000円ほどとなっています。また、夫婦の平均年金受給額は約22万円となっており、年金の受給額が月約30万円あるTさんは一見とても恵まれているようです。

 

しかし、50代から退職間際まで年収1,000万円を超えていたTさんは、月々の手取りが約70万円と年金受給額の倍以上。収入が多かったため生活水準は高く、その分支出も多い生活を送っていました。

 

「将来のことを考えると、節約して貯蓄をしておく必要がありそうですね」と筆者がお話ししたところ、Tさんは「そうですね……、しかし友人付き合いもあり、なかなか生活のレベルを落とすことはすぐには難しいかと……」といいます。

 

支出を抑えることが難しいとなると、年金のほかに老後の生活費を稼ぐ必要がありそうですが、これまで上場企業で管理職をしていたTさんはコンビニのバイトや警備員の仕事には抵抗があるそうです。