ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界的な資源高。それに伴い各国で物価が上昇していると耳にしたことがあるでしょう。日本でも物価高により「生活が苦しい」という声は日に日に大きくなっていますが、「世界中の人たちが大変な思いをしているんだから」と、どこか納得している人も。ただ、それはどうも大きな勘違いのようです。みていきましょう。
20万円の負担増!ガソリン価格も最高値!〈弱すぎる日本円〉に「もう、限界です。」 (写真はイメージです/PIXTA)

2年で20万円の負担増の真相

2023年8月30日の日本経済新聞の朝刊1面に「円の実力、53年ぶり低水準」という見出しと共に、家計負担が20万円近くも増すという言葉が並びました。「物価はあがっているけど、給与は上がらない……それで負担増だと!」と目を丸くした人も多いでしょう。

 

要点をまとめると、

 

●日銀が発表した「実質実効為替レート」が74.31(2020年=100)。ドルやユーロなど様々な通貨に対する円の総合的な購買力は、53年ぶりの低水準

●円相場がこの先1ドル=145円前後で推移した場合、1世帯あたりの負担増は2年で18.8万円、物価対策がなければ20万になる

 

ということですが、「なんのことやら……」と首をかしげる人も。そこで、まずは整理をしていきましょう。

 

最初に、「為替レート」について。これは外国為替市場において異なる通貨が交換(売買)される際の交換比率のこと。よく耳にする「1ドル=OO円」というのは「名目為替レート」といいます。そして国家間の物価上昇率の差を考慮した為替レートは「実質為替レート」といいます。

 

さらに、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標とされているのが「実効為替レート」。相手国・地域の貿易額で加重平均して算出したものを「名目実効為替レート」、名目実効為替レートから物価変動分を除いたものを「実質実効為替レート」といいます。

 

今回焦点が当てられているのは「実質実効為替レート」。相対的な指標なので、それが低水準だということは、ドルやユーロなど様々な通貨に対して円の力は弱くなっているということになります。

 

昨今の日本の「実質実効為替レート」をみていくと、2021年9月に91.15。その翌月には90を下回り、2022年には79.3と、80を下回るようになりました。最新2023年7月の水準は、1970年9月以降の最低値、22年10月の73.7に近い水準です(関連記事:『日本の「実質実効為替レート」の推移…1980年7月~2023年7月』)。