日本では、生活に困窮した人もなんとか食事にありつくことができ、必要最低限の栄養をとることが可能です。しかし、それでもなお「餓死」してしまう人がいます。その背景には、行政が手を尽くしても、餓死の危機に直面するほどに困窮した人を捕捉しきれないという構造があります。ノンフィクション作家・石井光太氏の著書『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(PHP研究所)から一部抜粋してご紹介します。
日本で「餓死者」が出るのはなぜ?「行政」が生活困窮者の「シグナル」を察知できない理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

生活に困窮した人も「なんとか」食べていける構造

国内で生活に困窮している人たちは、1ヵ月の食費にどれくらいの額をかけているのだろう。一例として、生活保護受給者のそれを考えてみる。

 

東京23区の単身生活保護受給者の場合、家賃を除いた生活扶助は7万円前後である。通信費や光熱費などを除けば、食費に充てられるのは月3万~3万5,000円。1日に換算すると1,100円ぐらいだ。

 

全国のスーパーのお弁当の平均は1個当たり400〜500円。賞味期限が近い安価な弁当を選んで、1日にどうにかこうにか3食というのが食生活と考えていいだろう。ただし、アルコールや甘い物や煙草が好きな人であれば、その分の額を食費から削らなければならなくなるので、食事の量は減る。

 

生活保護受給者の4割が食事を1日2食以下に抑えているとされているが、原因はそうしたことにある。

 

これより困難な状況に置かれているのが、生活保護を受給していない「相対的貧困層」の子育て世帯だ。生活保護を受けていれば、子供の数に応じて「生活扶助」や「教育扶助」が増額されるが、彼らはそうではない。子供が増えた分だけ、生活費に占める食費の割合が増えることになる。

 

かつて国会で紹介された家庭の例を挙げよう。母子家庭で、小学生と中学生の子供が1人ずついた。この家庭が1週間に充てられる食費は全部で7,000円。1食当たりにすると1人111円である。食事を2回に減らしたとしても一食当たり200~300円ぐらいが限界だ。ご飯やパンにおかずが1品ついている程度である。

 

貧困支援のNPOのスタッフから次のような話を聞いたことがある。

 

「日本の貧しい母子家庭が3食ちゃんととろうとしたら、レストランやスーパーで働いて余りものをもらうのが一番だと思います。収入は低くても食べていくことはできますからね。とはいっても、そういう職場では正社員登用がほとんどありませんし、収入は低いまま据え置きというのが普通です。そうなると、食べていくことはできても、貧困から脱することができなくなるんですよ」

 

私が取材したシングルマザーの家庭では、朝食はとっておらず、夕食はケチャップやマヨネーズをつけた米を食べているだけだった。その代わり、昼に母親はレストランのまかないを食べ、子供は給食を食べることで最低限の栄養を摂取していた。日本ではこうやってなんとか健康が維持されているのだ。