日本の刑務所は犯罪を増加させる?
日本は世界的にみて治安のよい国である。刑務所についても、細かく見れば、収容人数が定員過多になっているなどの問題はあるが、途上国と比較すれば、健全な運営がなされているといって間違いない。
[図表1]、[図表2]は、刑務所内での一日の生活スケジュールと献立である。
正月などの行事には特別な献立が用意されているし、歌手の慰問コンサートが開かれたりもする。女子刑務所では、職業訓練としてネイルアートや美容の勉強をすることもできる。健康を害すれば薬をもらえ、症状が悪ければ手術も受けられる。
おそらくこれを読んだ方の中には、「今の自分の生活よりいいじゃないか」と思った方もいるのではないか。実際に、手取り10万円以下で生活していたり、お年寄りできつい年金生活をしていたりする人にとっては、社会で生きるより刑務所に収容されていたほうが人間らしい生活を営めるという現実がある。一般社会と刑務所の優劣が逆転してしまうのだ。
最近も、あるスポーツ紙に、40代の男性が「働くより刑務所に入っていた方が楽だから」とわざと銃刀法違反を犯した男性の記事が掲載されていた。男性は、建設関係の仕事をしていたが、1ヵ月半経った頃から無断欠勤していた。逮捕時の所持金は13円で、公園で寝泊まりしていたという。
野外に段ボールを敷いて、ホームレスとして寒さや空腹に耐えながら生きていくのは非常につらいことだ。死ぬまでそんな生活をするくらいなら、刑務所に入って雨風をしのいで三食とりたいと考える気持ちも理解できる。残念ながら、日本にはそのような理由で犯罪に手を染め、自ら刑務所に入ろうとする人たちが一定数存在する。
日本の刑務所では生活環境が整いすぎているため、そうしたことが起こり得るのだ。
こうした犯罪者の中には、知的・精神障害を抱えている人々も少なくない。「累犯障害者」と呼ばれる人々だ。障害ゆえに社会に居心地の悪さを感じ、刑務所に入ることを目的に軽犯罪をくり返す人たちである。
法務省の発表によれば、2020年度の新規受刑者は1万6,620人だが、このうち知能指数が69を下回る者(知的障害と認定されるレベル)は3,317人に及ぶ。さらにテストを受けることさえできない者が406人。つまり、新しい受刑者の4人に1人が知的障害者なのである。全員というわけではないが、このうちの一部は先述のように「刑務所で暮らすほうが楽」と考えて、故意に罪を犯す。