生活に困窮した人のためのセーフティネットとして「生活保護制度」があります。しかし、生活保護を受給すると、そこから抜け出すのが困難になってしまうケースが往々にしてあります。特に、いわゆる「シングルマザー」の世帯で顕著です。なぜ、そんなことになるのか。ノンフィクション作家・石井光太氏の著書『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(PHP研究所)から一部抜粋してご紹介します。
2児を育てるシングルマザーの生活保護費は「手取り22万円」だが…受給をやめて“働いた場合”の「驚きの手取り額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

連鎖する貧困

途上国と違って、日本では生活に困ったからといって海外へ出稼ぎに行く人はほとんどいないだろう。アメリカやカナダなど日本より物価の高い国はあるが、そこへ働きに行けるくらいなら、そもそも日本で失業していないはずだ。それゆえ、日本人には貧困を脱するために海外へ行こうという発想はあまりない。

 

では、日本の生活困窮者が仕事を失ったとき、何を頼みの綱とするのか。彼らのよりどころは、公的な福祉制度だ。代表的なものが「生活保護」だ。

 

生活保護の支給額は、地域や個人によって差があるが、単身者で1ヵ月当たり10万円台前半といったところが一般的だ。5万円ぐらいの家賃の住居に暮らし、5万円ぐらいの生活費が支給されるのである。

 

子どもがいる場合は人数や年齢によってまちまちだが、一例として幼い2児がいるシングルマザーの家庭では、年間に約268万円(月22万3,000円)を受給できる。さらに国民年金や社会保険の支払いが免除されることを踏まえれば、そこそこの生活はできるといえるかもしれない。

 

さらに、親に障害がある場合は、「障害基礎年金」が給付される。障害の度合によって支給額は異なるが、一級の障害者は年に97万2,250円(月額8万1,021円)が支給され、子どもがいればその数に応じて加算されていく仕組みだ。

 

こうしてみると、日本ではいくつもの福祉制度が網のようになって、社会からこぼれ落ちそうな人々を助けているのがわかるはずだ。だが、こうした社会システムは諸刃(もろは)の剣でもあり、恵まれた条件が整っているがゆえに、人々が勤労の意欲を失うことがある。

 

たとえば2児の子どもがいる生活保護のシングルマザーの月の収入は22万3,000円だ。これに加えて、医療費や所得税などが免除されることを考えれば、大体月収30万円くらいの生活レベルになるだろう。

 

もしこの女性が途中で生活保護をやめて、アルバイトで生活していこうとしたとしよう。その場合、アルバイトの時給が最低賃金であれば、手取りは14万円以下と生活保護を受けていた時の半分の生活になってしまう。これでは何が何でも生活保護にしがみつこうという人が出てきても仕方のないことだ。

 

大阪府の職員は、こうした現状について次のように語る。

 

「誰だって仕事をして自立したいと考えるのは当然でしょう。しかし、生活保護をもらっている方が生活レベルが高くなるのならば、子育てをしている人はなし崩し的にそっちを選択してしまうことはやむをえないんじゃないですかね。そして一度生活保護を受給してしまうと、なかなかいい条件の仕事が見つからないから、ずっとそれに依存するようになる。やめたくてもやめられない、という人もたくさんいるんです」

 

シングルマザーが2人の子どもを抱えながら、月に30万円を稼ぎ出すことは簡単なことではない。給料の高い夜の仕事もあるが、子どもたちには寂しい思いをさせることになる。それなら、子どもが大きくなるまでは生活保護に依存しようという気持ちになるのは自然だ。