刑務所の暮らしに「安心」を見出す「高齢の受刑者」
また、最近では高齢の受刑者の問題も大きくなっている。2020年に検挙された人のうち、16.9%(4万1,696人)が65歳以上の高齢者だ。30年前と比べると5倍の数字である。
こうした高齢者が犯す罪のほとんどは軽犯罪だ。[図表3]を見てほしい。
全体の69.5%が窃盗であり、女性だけに関していえば89.5%にもなる。生活が立ち行かなくなった高齢者が窃盗に走ったり、刑務所のほうが満足な暮らしができるという思いでわざと無銭飲食したりして捕まるケースがあるのだ。
日本のコミュニティーが失われた町で、心身に問題を抱える高齢者が自力で生きていくのは容易なことではない。だが、刑務所に入りさえすれば、衣食住を用意してもらえるし、介護のサービスまでついてくる。これでは刑務所の暮らしに「安心」を見いだすのも無理はない。
かつて私はネパールの元政治家にこの話をしてみたことがある。すると、次のような答えが返ってきた。
「ネパールでは、知的障害者や高齢者が刑務所の生活のほうがマシと思って犯罪をすることなんて考えられません。刑務所は一般社会と比べて、生きるのに楽な場所ではありませんからね。それに、スラムや路上で暮らしている人たちは、知的障害があったり、高齢であったりすれば、家族や友人の誰かしらが助けてくれます。一応ネパールにも老人福祉施設はありますけど、先進国ほど数が少ないのは、家族や隣人がその人たちの生活を支えるからなんです。私には、なぜ豊かな日本で知的障害者や高齢者がそんなことになってしまっているのか理解できません」
こうしたことが起こる原因は、日本では「国が何とかしてくれる」「社会保障制度があるから大丈夫」「専門家に任せるべき」と考え、目の前で困っている人を突き放す傾向にあるからではないだろうか。しかし、一般に思われているほど「国」や「社会保障制度」は助けにならないのである。
石井 光太
作家