生活に困窮した人のためのセーフティネットとして「生活保護制度」があります。しかし、生活保護を受給すると、そこから抜け出すのが困難になってしまうケースが往々にしてあります。特に、いわゆる「シングルマザー」の世帯で顕著です。なぜ、そんなことになるのか。ノンフィクション作家・石井光太氏の著書『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(PHP研究所)から一部抜粋してご紹介します。
2児を育てるシングルマザーの生活保護費は「手取り22万円」だが…受給をやめて“働いた場合”の「驚きの手取り額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「生活保護」受給が「子ども」に与える悪影響とは

ただ、こうした親の生き方が、子どもに負の影響を及ぼすことがある。親が働かずに生きているのを見ることで、何かあれば生活保護を受給すればいいという思考に染まることがあるのだ。

 

一例として女性の例を挙げたい。

 

【香梨奈が生活保護を受けるまで】

 

香梨奈の母親は2度の離婚の後に精神を病み、それまでしていた水商売を辞めて生活保護を受けるようになった。そんな母親のもとで香梨奈は一人娘として育った。

 

母親は生活保護のお金で飲み歩いては、男性を家に連れ込むことが度々あった。香梨奈はそれが嫌で友達の家を泊まり歩くことが増え、中学を卒業してからはフリーターをやりながら彼氏の家で暮らしていた。

 

18歳の時、香梨奈は6つ年上の男性と結婚した。夫は運送業者として働いており、香梨奈はパチンコ店のアルバイトをしていたので生活はできていた。1年後、彼女は出産と同時にアルバイトを辞めた。

 

それから少しして、予期せぬことが起きた。夫が覚醒剤に手を出し、香梨奈に暴力を振るうようになったのだ。最初は子どものためにと我慢していたが、しばらくして夫は警察に逮捕された。

 

香梨奈はやむなく離婚。シングルマザーとして子どもを育てていこうと決心したが、中卒だったためになかなか仕事が見つからない。そこで、思いついたのが生活保護だった。母親は生活保護を受けながら、自分を育ててくれた。自分も申請すれば同じようにまとまったお金をもらえるのではないだろうか。

 

彼女はインターネットで調べてNPOに相談しに行き、一緒に生活保護の申請の手続きをしたところ、子どもがいたこともあってあっさりと受理された。その後、彼女は自立を目指して求職したこともあったが、望むような条件のところは見つからなかった。

 

今では働くことを諦め、子どもが大きくなるまでは生活保護で生きることにしている。

 

香梨奈のように、生活保護家庭で育った人が、大人になってから同じように生活保護を受けるケースは少なくない。統計にもそれは表れており、生活保護を受けたことのある人で「親も生活保護を受けていた」と答えた人は25%にも及んだ。母子世帯に限っていえば、41%だ。これが低い数値ではないことは誰の目にも明らかだろう。

 

ちなみに母親を対象にした調査([図表])を見れば、若い人が何が原因で貧困に陥っているかわかる。香梨奈のケースにも合致するが、「十代での出産」「中卒」「離婚経験」はかなり大きなリスク要因だ。親の生活保護受給経験の他にも、こうした母親の経歴が子どもに影響を与え、2代にわたって生活保護に依存する状況をつくりだしているのである。

 

出所:労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査(2012年)」
[図表1]保護者(母親)の属性と貧困率 出所:労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査(2012年)」

 

 

石井 光太

作家