日本の貧困家庭で起きている「家庭崩壊」「児童虐待」の実情と、その背景について、ノンフィクション作家・石井光太氏の著書『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(PHP研究所)から一部抜粋してご紹介します。
<3都道府県・17児童相談所の分析>児童虐待の約45%が「貧困家庭」で発生…「住宅の狭さ」が及ぼす影響とは (※写真はイメージです/PIXTA)

低所得者の家庭で「虐待」が起こりやすい理由

劣悪な家族関係の最たるものが虐待だろう。虐待と貧困についての関係を押さえておきたい。現在、児童相談所における児童虐待相談対応件数は年々増えており、約30年間で約190倍になっている([図表1])。

 

出所:厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数」
[図表1]児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移 出所:厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数」

 

以前、3都道府県・17児童相談所で児童虐待が原因で保護された子どもを分析したことがあった。それによれば、「生活保護世帯」が19.4%、「市町村民税非課税」「所得税非課税」世帯は26%という結果だった(出典:加藤洋子「児童相談所が対応する虐待問題を持つ家族の特徴に関する研究―2003年・2008年の子ども虐待実態調査の2次分析を通して―」)。つまり、児童虐待の半数近くが低所得者の家庭で行われていたのだ。

 

なぜ低所得者の家庭で虐待が起きやすいのか。次のような要因が考えられる。

 

  1. 粗雑な性格など、親が貧困になる因子と虐待をする因子を双方持っている。
  2. 貧しさゆえに、親が精神的に追いつめられやすい。
  3. 狭い家は密室化しやすく、暴力がエスカレートしやすい。

 

社会で低賃金の仕事にしかつけない人は、そもそも性格が粗雑だとか、人付き合いが苦手だとか、論理的な話し合いができないといった特性を抱えていることがある。こうした大人は、家庭の中でも同じように子どもとぶつかり、暴力を振るいやすい。また、経済的に困窮していれば、親に気持ちのゆとりがなくなる。借金のストレスでいら立っている親なら、子どもの些細な言動に敏感になり、簡単に激昂しがちで、それが暴力として表れるのだ。

 

日本の狭い住宅の中では、このような親子間のいざこざがなかなか表ざたにならない。コミュニティーがあった時代は、祖父母、親戚、近隣住民が見つけて止めに入ることができた。だが、今の核家族化した密室の中では、第三者が家に立ち入ることがあまりないので、密室の中で親子間の暴力がエスカレートしやすい。

 

このように見ていくと、貧しく狭い家であればあるほど、虐待リスクが高まることがわかるだろう。貧困だけが原因というより、そこから生じる諸問題がどんどん膨れていって大きな問題になっていくのだ。

 

 

石井 光太

作家