赤字収支であっても生活費を変えられなかった
現役中のAさんは残業が多く、帰りが遅くなることが多くありました。そういった事情もあり、夕食は馴染みの居酒屋でお酒を飲みながら食べることがほとんどでした。
再雇用期間は定時退社が基本で時間的な余裕ができたことから、時々自分で料理をするようになりました。一方、馴染みの居酒屋に通うことも続けており、休日に足を運ぶことも増えたので食費は現役時代とほぼ変わっていません。
そして、釣りやゴルフといった趣味にかけられる時間は現役時代よりも増加し、それぞれ月に1回だったものが2回ずつに増えていました。
社外へ営業に出ることがなくなったため交際費は自然と減っていましたが、それでも毎月の収支は赤字でした。現状のAさんの支出、収支は[図表1]の通りです。
なんと、毎月14万円もの赤字です。当然、老後資金が猛烈な勢いで減少していくことになります。このままの支出を続けた場合、Aさんの預金は4年以内に枯渇します。
「収入が減っているのに生活水準を変えないなんておかしい」
と思われるかもしれませんが、「変えない」のではなく「変えられない」のです。
多くの企業では50代が平均給与のピークとなっています。つまり、収入額だけ考えれば定年直前が人生で一番裕福でゆとりのある状態です。
よほど意識して倹約に努めない限りは、生活水準も一番高くなるタイミングでしょう。そんな裕福な状態から、新卒並みの所得(年金収入)になるわけです。
仮に「明日から収入が半分になります。生活費も半分にして下さい」と告げられて、どれだけの人が柔軟に対応できるでしょうか?
もちろん、退職時期は事前に分かっているので、上記の質問のようなことはあり得ません。しかし、分かっていてもすべての人が退職に向けて準備ができているわけではないのです。
日本弁護士連合会の「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」によれば、破産債務者のうち60代が16.37%、70代が9.35%となっており、破産者の4分の1を60代以上の方が占めていることが分かります。
また、破産債務者の平均月収は14万2,021円で、年金収入の平均月額は14万6,162円です(令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況)。そして、破産理由のうち61.69%を「生活苦・低所得」が占めています。
このデータからみると、年金収入のみで老後の生活を成り立たせることは困難である可能性が高いということです。
老後破産は決して他人事ではなく、油断をすれば誰にでも起こりえることだと言えます。