「離れて一人暮らしをしている高齢の親が心配……」といった理由で、二世帯住宅での同居を考える子世代は少なくありません。確かに子世代にとって、高齢の親は一緒に住んでいるほうが安心ですが、安易な親との同居は大きなリスクが伴うと、長岡FP事務所代表の長岡理知氏はいいます。いったいなぜでしょうか。本記事ではEさんの事例とともに、親との同居の注意点について解説します。
40代夫婦、都内に「9,500万円の二世帯住宅」購入も...引っ越し1ヵ月で「ピカピカ新居の売却」を決めた“77歳母の異変”【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

一人暮らしの77歳母に認知症の兆候が…

〈事例〉

 

妻Eさん43歳 年収800万円 岩手県出身 東京都在住

夫Kさん43歳 年収1,000万円

Eさんの母親 77歳 岩手県在住

世帯年収 1,800万円

貯蓄 3,900万円

子供 2人

 

妻のEさんは43歳です。岩手県に生まれ、地元の進学校を卒業し、18歳で東京の大学に進学しました。就活にも成功し大手企業に就職。職場で出会った夫のKさんと結婚しました。2人の娘さんにも恵まれ順調な人生を送っています。世帯年収は1,800万円と非常に高収入。誰もが羨むような家族です。

 

一方で、妻のEさんには最近気がかりなことがありました。岩手の実家で一人暮らしをしている77歳の母親のことです。5年前に父親が亡くなってから母親は一人暮らしを続けています。仲のいい父母だったので1人になった母親はこれから大丈夫なのか心配していましたが、なんとか気持ちを切り替えて暮らしているようでした。

 

ところが年末に家族で帰省したときに、ずいぶんと老けてしまったなと気づいたのです。完全にお年寄りの雰囲気になっていることに少しショックを受けました。「まだ77歳でこんなに弱々しくなるものなの?」と心がざわつきました。

 

きれい好きだった記憶でしたが実家のなかは物であふれています。冷蔵庫のなかも賞味期限が過ぎた食材がたくさんある状態。体力がないのか、家事が上手くできていないようです。一番ショックを受けたのは、母親が使っている軽自動車があちこち潰れていたこと。ニュースでよく見かける高齢者の暴走事故を連想してしまいました。

 

「そろそろ免許返納を考えているの?」と母親に声をかけても、「まだまだ運転できる」とむしろ自信を持っている様子。しかしとても安全運転ができるようには見えません。夫も同じことを思ったらしく、帰りの新幹線のなかで「お母さん、そろそろ1人で暮らすのは難しいかもね」といわれました。

 

Eさんには6歳年上の姉がいます。しかし父母が長女を厳しく躾けようとしたあまり、大きな確執を生んでしまいました。姉は18歳で家を出てから一度も帰らず、父母に居所も教えませんでした。現在は家庭を持っているようですが、詳しい居所は知りません。姉の家族にも会ったことがありません。LINEで繋がっているだけです。そんな姉には頼れません。母の様子をLINEで教えてみたものの一向に既読になりません。

 

Eさんはしばらく実家の母の姿が頭から離れませんでした。

 

母との同居を提案

そのころ、これまでの賃貸暮らしから、マンションを購入して引っ越そうかという提案が夫からありました。憧れていたタワーマンションを購入するチャンスかと思いましたが、妻のEさんはふと思ったのです。

 

「実家の母親を東京に呼び寄せて同居できないだろうか」

 

夫にその気持ちを話すと快く同意してくれました。それなら、最低でも4LDKの間取りが必要なので、マンションより戸建てを検討しようという話の流れになりました。職場から遠くなるものの、母親と同居できる安心感には代えがたいと妻のEさんは思いました。

 

ある週末、実家の母親にその計画を話してみました。母親はとても驚き、最初は拒否をしました。「東京になんて住めないわ」と不安そうにいっていましたが、孫と住めること、雪も降らず安全に暮らせること、車にもう乗らなくていいことなどメリットを並べたところ、少し考え直したようでした。一週間考えた結果、母親は「一緒に住むことにしようかしら」と返事をくれました。