60代夫婦、夫の大腸がん罹患で年金暮らしに暗雲
東京都足立区在住、年金生活者で68歳男性の高山浩次さん(仮名)。家族はひとつ年下の妻と40代の長男の3人家族。高山さんは鉄道会社に40年以上勤め、3年前に65歳で定年退職。長男はすでに結婚し、現在は仕事で関西に住んでいるため、妻とのおだやかなセカンドライフを送っていました。
高山さん夫妻の年金手取り額は月当たり約25万円で、退職時の貯蓄は約4,000万円。住宅ローンや教育ローンは在職中に完済したため、老後のお金についても特に不安なく過ごしていました。
ところが高山さんが66歳のときに大腸がんが発覚。主治医からは、標準治療と呼ばれる手術と術後の抗がん剤治療が提案されました。高山さんはがんの告知を受けて動揺はしましたが、過去に父親もがんを患ったこと、先日精密検査として受けた内視鏡検査で画像を見た医師からがんの疑いをほのめかされていたので、思っていたよりは冷静に医師の告知を受け止められました。
しかし、横にいた妻はショックが大きかったようで、目の前の主治医に訴えました。
妻の妹の体験から標準治療を拒否
「私の妹は以前胃がんになり、手術を受けたあと、抗がん剤治療を受けました。でも結局すぐにあちこちにがんは転移、しかも抗がん剤の副作用でずっとつらい思いをしたあげく、最後は亡くなりました。夫に同じ目にあってほしくありません、先生、なにかほかにもっとよい治療を紹介してください」
妻にとって高山さんはしっかり者でとても頼りになる存在、どちらかというと夫への甘えや依存心が強い傾向にありました。子供は遠方に住んでいてほかに頼る存在もいないため、夫を失うかもしれないという恐怖心から、主治医からの治療提案に対し、拒否反応を起こしたのです。約20年前、妻の妹は50歳のときに胃がんが悪化し亡くなりました。治療中とても強い抗がん剤の副作用で苦しむ姿や体がどんどんやせ細り、がん発覚から1年もたたずに亡くなり、とても辛い思いをしたため、妻のなかでは、
がん=死
というイメージが強烈に焼き付いていました。
ただ主治医からは、手術と抗がん剤治療が最も科学的根拠に優れた治療であると伝えられ、そのまま治療を受けることを勧められました。
高山さん自身は主治医からの提案でよいという思いもありましたが、一方で妻の妹ががん治療で苦しんでいた姿、妹を失って長いあいだ悲しみから立ち直れなかった妻の姿も見ていたので、妻の意見も尊重したいと、一旦その場では結論を出さずに帰宅しました。
1週間ほど時間をとって検討しましたが、最終的に高山さん夫妻は手術と抗がん剤治療は受けず、別の治療を選択するという結論に達しました。