一点集中で失われた総合的判断
がん完治を願って、自由診療の免疫療法を続けたもの、結局がんは悪化、貯蓄も大半を失ってしまったところへ今度は妻の介護が発生。残念ながら老後破産という状況といえるかもしれませんが、どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。
確かに妻の妹の体験から、がんの手術や抗がん剤治療を受けることへの抵抗感は強いものであったと思われます。それ自体はおそらく自然なことであるといえます。ただし、最終的に貯蓄をほとんど失ったところで、さらにアクシデントが発生するという結果から考えると、高山さん夫妻がとった行動にはいくつかの問題点があったと考えられます。大きく、
②お金の使い方
の2点があげられますが、以下でそれぞれ確認していきたいと思います。
①いいとこ取りの情報収集
高山さん夫妻は、ネット検索で大腸がんの治療について情報収集したわけですが、最初に手術による後遺症や合併症、抗がん剤の副作用などの、大腸がんの標準治療に対するデメリットに関する情報、その後副作用や体への負担の少なさ、がんが完治できるといった、免疫療法のメリットに触れ、結論を出してしまいました。
まず目の前の情報に対し、都合のよい解釈だけで判断をしてしまったといえるのではないでしょうか。高山さんの判断材料に、
・免疫療法のデメリット
がありません。妻の妹の辛い体験を夫に味あわせたくないという強い思いから、その辛さのところを解消するためだけの情報収集と解釈になってしまっています。
また、妻の妹の事例が約20年前の出来事ということも併せて問題としてあげられます。20年前といま、がん治療の質も大きく変わっている可能性があります。現在のがん標準治療について、もう少し情報を精査すべきであったかもしれません。
②貯蓄に対する「誤った認識」と「無計画」な出費
2つ目の問題点ですが、それは、貯蓄残高=がん治療の予算となってしまったことです。もちろん高山さん夫妻も最初から貯蓄をほとんど吐き出すことになるとは考えていなかったと思います。そしてがんの免疫療法が進んでいくうちに、貯蓄残高が目に見えて減少していき、「このままでいいのだろうか……?」という疑問を持ったかもしれません。
ときどき検査でがんが縮小していたことがあり、治療効果が出ていること、そしてがんが治るのであれば貯蓄を失っても贅沢をしなければなんとか暮らしていけるといった思いもあり、自分たちの治療選択に対し、いまさら後戻りはできないという状態になっていた可能性があります。
ただ年金生活者となった60代後半の高山さん夫妻にとって、その先の人生における経済的なリスクを高山さんのがん治療のみと考えたことは、少し視野が狭い発想であったかもしれません。妻は過去の妹のがんのこともあり、なんとかしたいという思いが強かったかもしれませんが、自分自身にもアクシデントが発生する可能性をふまえて支出を考える必要があったと思います。