正しい情報を得るための「がん相談支援センター」活用という選択肢
日本でがんの診断を受けた場合、基本的にはその地域の、がん診療連携拠点病院などで治療を受けることになります。これは日本全国どこでも質の高いがん治療が受けられるよう、国ががん対策の一環として都道府県ごとに整備してきたものです。そしてそのがん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターという相談窓口も国のがん対策のひとつとして整備されました。ここでは、がんに関するあらゆる相談が無料でできるようになっています。治療のことはもちろん、メンタル的なこと、仕事のこと、お金のことなどをがん患者本人もそうですし、家族なども利用することが可能です。
今回高山さん夫妻は、自分たちだけで情報を収集し、そして結論を出してしまいましたが、がんや医療という一般人では判断が難しい分野であることを考えると、専門家に相談をしてから決めるという発想も大切であったかもしれません。
冷静かつ客観的な医療情報の取得
国立がん研究センターは、がんの免疫療法に関して、
現在の免疫療法には、治療効果や安全性が科学的に証明された「効果が証明された免疫療法」と、治療効果や安全性が科学的に証明されていない「効果が証明されていない免疫療法」があります。近年研究開発が進められていますが、「効果が証明された免疫療法」は、まだ一部に限られています。
と述べています。過去に『オプジーボ』という薬の開発でノーベル賞受賞が話題になりましたが、オプジーボは一部に限られている「効果が証明された免疫療法」のひとつです。肺がんなどの治療において、健康保険が適用となり、対象となるがん患者さんは、安価な負担で治療を受けられるようになっています。健康保険の適用となるということは、国が数多くの臨床試験のデータから、その治療効果などを認めているということです。
一方で国が承認していない自由診療として行われている免疫療法もたくさんあります。国立がん研究センターが述べるように、自由診療で行われている免疫療法のほうが多数派という位置づけです。
やはり医療の素人である高山さん夫妻が、免疫療法を行う医療機関に個別医療相談へ行って、その場で結論を出してしまったことは性急な判断であったかもしれません。一度主治医に相談をする、もしくは別の医師にセカンドオピニオン相談などを行う必要があったのではないでしょうか。
がん相談支援センターに相談することで、そういったアドバイスをもらえ、一旦冷静になって考え直す機会ができたかもしれません。
老後は現役時代よりも「資金計画」を慎重に考えるべき理由
高山さん夫妻は、4,000万円の貯蓄があるので自由診療のがん免疫療法を受けたとしても、それほど問題は無いと考えていたかもしれません。ただ今回の事例でわかるとおり、3,000万円、4,000万円といった金額はあっという間に失くなってしまうことがあります。
まずがん免疫療法がどの程度続き、それにより総額いくらの支出をすることになるのかといったことが最初に検討される必要があったと思われます。65歳から年金生活が始まり、どういった経済的リスクがあり、それに対し4,000万円という金額が高山さん夫妻にとってどの程度のゆとりになっているのか、ということを明らかにしないまま進んでしまったことが問題であったと思います。
なぜ老後を迎えるにあたり、その先のリスクについて明らかにする必要があるかというと、若い現役時代と違い、やり直しがきかないからです。基本的には収入を増やすということも難しくなりますし、今回の高山さん夫妻のがんや介護といった、健康上の不安も高まります。
ですから、自分たちが持つ資金に対して、具体的な資金計画が必要となります。もちろんすべてが計画通りにはいくとは限りませんが、一度考えられるリスクを明らかにすることで、その後の行動も変わってきます。やり直しがきかないという前提があることで、判断も慎重になるかと思います。
今回高山さんが高額の自由診療を考えるタイミングで、資金計画を立て直す必要があったと思います。こちらもがん相談支援センターで相談することで、お金の面での注意喚起を受けられたかもしれません。
がんは、精神的に大きなダメージを受けて冷静な判断が難しくなることが考えられますし、インターネット上には膨大な治療情報があふれていて適切に取捨選択することが困難である可能性があります。そして今回の事例のように、高額な費用で家計を崩壊させてしまう恐れもあります。がん相談支援センターの活用など、専門家に相談して第3者からの客観的な意見をもらい慎重に判断することをお勧めいたします。
谷藤 淳一
株式会社ライフヴィジョン
代表取締役