アルコールが体内で分解される仕組み
アルコールは体内で3段階にわたって分解され、無害化されます。そのとき働くのは2つの酵素です。しかし、生まれつき酵素が欠損している、あるいは働きが弱い人もいるため、お酒を飲んで顔が赤くなる人とそうでない人がいます。
まずは基本を確認…体内でアルコールが分解される仕組みとは?
体内に入ったアルコールは胃から20%、小腸から80%吸収されたのち、肝臓で分解されます。分解は以下の通り、3つのステップで行われます。
1.アルコール脱水酵素(ADH)の働きにより、アルコールはアセトアルデヒドに分解される
2.アセトアルデヒド脱水酵素(ALDH)の働きにより、アセトアルデヒドは酢酸に分解される
3.酢酸は血液とともに全身を巡り、水と二酸化炭素に分解される。その後、汗や尿となって体外へ排出される
1.酵素ADHについて
酵素ADHには複数の型がありますが、日本人で多いとされているのは「ADH1B2」という特殊なタイプです。研究(※1)によると、日本人では9割以上がこのタイプを持っているとされています。
ADH1B2は、アルコールをすぐアセトアルデヒドに分解するという特徴を持っています。アセトアルデヒドは、二日酔いの原因になる物質で、血管を拡張させて顔を赤くし、頭痛、悪酔い、二日酔いを招きます。
ADH1B2の酵素を持つ人は、すぐさまアルコールをアセトアルデヒドへ分解できてしまうため、少しお酒を飲んだだけで頭痛がしたり、動悸がしたりしてしまうのです。
しかし、これは悪いことではありません。体内でアセトアルデヒドがすぐに作られたとしても、それを長い時間留めておかず、サッと排出してしまえば良いのです。そこで重要になるのが、ALDHという2つ目の酵素です。
このALDHには次の2つのタイプがあります。
◆ALDH1
血中アセトアルデヒド濃度が高くならないと働かず、ゆっくり分解する
◆ALDH2
血中アセトアルデヒド濃度が低い時点から作用する
分解する力でいうと、ALDH2は血中濃度が低いうちから働くため、ALDH1に比べて強力です。「お酒が強いか弱いか」は、実はどちらのタイプの酵素を持っているかで決まります。
ALDH2の活性が弱い、あるいは欠けていると、アセトアルデヒドが体内にたまりやすく、「お酒に弱い体質」になります。
実は日本人では遺伝子の突然変異により、ALDH2の働きが弱い人が多くみられるのです。
ALDH2は、特性によって以下の3つに分類されます。
ND型とDD型は程度の差こそあれ、ごく少量のお酒でもすぐ顔が赤くなったり、気分が悪くなってしまったりする、お酒に弱いタイプとまとめて良いでしょう。つまり、日本人の約半数が体質的に「お酒に弱い」ということになるのです。
ALDH2が非活性型・不活性型の人は「食道がんのリスクが高くなる」
ALDH2が非活性であるND型と、完全に不活性であるDD型は、単にお酒が弱いということではありません。実はこのタイプの酵素を持っている人は、食道がんや頭頸部がんを発症するリスクが高いことが明らかになっています。
ある研究(※3)によると、ND型(ALDH2ヘテロ欠損)の男性飲酒者は、食道がんは11倍、頭頸部がんは6倍リスクが上昇することが明らかになっています。
また、日本酒換算0〜1合未満を飲酒するALDH2正常型の男性と比較すると、正常型の場合には3合以上飲むと食道がんのリスクは20倍になりました。しかし、ND型(ALDH2ヘテロ欠損)は1〜2.9合飲むだけで46倍、3合以上になると164倍にも上昇してしまったのです。
このように、ALDHの活性が弱い人の場合、発がん性物質のアセトアルデヒドがなかなか分解されず、口腔、咽喉頭、食道に長時間滞留してしまうことで、食道がんのリスクが高くなってしまいます。
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