住宅を購入しようとするとき、多くの人が疑問に思うことがあります。それは「我が家の年収では、いくらの購入予算が適正なのか?」ということです。では住宅購入の適正額を知るためにはどうしたらいいのでしょうか。本記事では共働きのSさん夫婦の事例とともに、住宅購入の資金計画の立て方や注意点について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収925万円の34歳共働き夫婦の「住宅購入計画」…FPが止めた「住宅ローン返済額」 (※画像はイメージです/PIXTA)

5,000万円払っていける自信がない…身近な人とFPに相談

Sさん夫婦が不安に思うのは、「銀行が5,000万円を貸してくれたとしても、それを払っていけるのか、生活に無理が生じないか」という点です。家計をつけていないため、自分で正確に計算するのは不可能と判断し、夫Sさんは何人かに相談を持ちかけてみることにしました。相談した様子はそれぞれ次のようなものでした。

 

・父母へ相談する

・職場の同僚、先輩に相談する

・ファイナンシャルプランナーに相談する

 

父母への相談の場合

夫Sさんがまず相談したのは、自分の父母でした。父はすでに退職していますが若いころに住宅ローンを借りて家を購入したことがあり、その体験からのアドバイスが得られるのではないかと思ったのです。

 

資金計画が5,000万円と聞いた父親は、「それは高いな~」と一言。「オレが建てたときは土地込みで2,900万円だった。親父には高いと驚かれたが、買うしかなかった。それよりもさらに高くなっていて驚くが、まあ、そんなものだろう」

 

父親はこう続けます。「親がとやかく言う立場にはないし、お金も出せないが、夫婦で払っていけると思うなら買えばいいと思う。よく話し合うように」

 

父親が購入したのは30年以上前で、当時はバブル景気の真っただなか。住宅ローンの金利も高かったため自己資金をいくら貯めているかが重要だったと言います。

 

Sさん夫婦は貯蓄が1,400万円あり、仮に自己資金として1,000万円を出すと、住宅ローンの借入額は4,000万円。毎月の返済額は約10万円です。(金利0.5%の場合)現在の家賃と大きく変わらないため、返済は可能なのではないかとSさん夫婦は思うようになりました。

 

「問題は、子供の教育費と、家の維持費だよ」Sさんの母親が言います。「大学進学のときは生活が大変になったし、この家は屋根外壁の塗り替えに10年ごとに100万円はかかっているよ」

 

いまは払えても、娘2人の大学進学時にはさらに貯蓄がないと生活が大変になります。その時期に屋根外壁の塗り替えが重なったら、家計は差し迫ったものとなるかもしれません。ここ数年は楽かもしれないが、その先は見通しがきかないな……というイメージでした。維持費の大変さを知ったのは大きな学びでした。

 

職場の同僚・上司への相談の場合

父母への相談で多少前向きな気持ちになった夫Sさんでしたが、職場の同僚にも相談してみました。

 

同僚はともに意見は共通していて、「5,000万円なんて高すぎる! やめておけ! 家を買うのは危険すぎる。お前の年収に対して分不相応だし」というものでした。しかし彼らは誰一人として持ち家を購入したことがありません。

 

分不相応という同僚は600万円の高級ミニバンを10年ローンで買っています。ほかにも、FX投資に失敗し数百万円の負債を負っている同僚、休みの日にパチンコに行く習慣の同僚、同僚からお金を借りて返せずトラブルになった同僚などがいて、どうもマネーリテラシーに欠けているようです。なぜか住宅ローンと聞くと脊椎反射で反対するかのようです。

 

これは相談相手にはならないな……と思ったのですが、家を購入したことがある直属の上司(49歳)の意見は参考になりました。

 

「S君は奥さんの収入が65歳まで続くと思っているようだが、それは危険ではないか? ネットの記事で読んだことがあるが、女性が60歳で働いている割合は約6割だそうだ。そのうち正規雇用は約32%。つまり全体の19%しか正規雇用で定年退職を迎えられないということになる。いくら働きたくても健康を崩したら働くのは難しくなる。そのリスクを考えたら、5,000万円の予算は冷静に考えたほうがいいよ」

 

たしかに妻が健康を崩し働けなくなるリスクは考えていませんでした。この上司は奥さんが35歳のときにうつ病を発症し、10年以上自宅療養を続けているとのこと。上司はシングルインカムとなりましたが、子供がいないのでなんとかなっていたが、もしいたらいまごろ大学進学で苦しんだだろうという部分にとても真実味がありました。

 

上司の話をネットで検索したところ、厚生労働省「令和元年版働く女性の実情」をもとにした記事を読んだようでした。確かにSさんの職場でも年齢とともに女性社員の人数が減っていくのが現状です。逆にSさん自身が病気で働けなくなるリスクもあります。この部分は非常に大切なリスク管理だと思いました。