我が子がもう結婚して家庭を持った30代、40代の大人であっても、我が子の大きな買い物が心配な親は珍しくありません。そんな親に家計や住宅ローンについて相談するのはよくても、度が過ぎるとかえって悪影響がおよぶことも……。本記事ではWさん夫婦の事例とともに、夫婦のマネープランの考え方について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収950万円の35歳夫婦…「毒親」乱入で「理想の詰まった6,200万円の注文住宅」購入計画が立ち消えの悲劇【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

子が大人になっても続く…共依存する親子たち

「毒親」という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれません。Wikipediaによるとこう解説されています。

 

「毒親(どくおや、英:toxicparents)は、毒になる親の略で、毒と比喩されるような悪影響を子供に及ぼす親、子どもが厄介と感じるような親を指す俗的概念である」

 

医療用語ではないので意味するところは曖昧ですが、親から子への虐待という意味合いだけではなく、むしろ親子の共依存など精神面での悪影響のことを指すことが多いようです。子供に強く依存し束縛する親、その親に縛られ期待に応えようとするあまり人生につまずく子供、というニュアンスです。「家族愛」という大きな掛け声の足元で、親子ともに生きづらくなるのは苦しいものです。

 

こういった意味での毒親との共依存による問題を抱える人は、10代の若い世代だけではなく家庭を持って自立しているはずの30代、40代の大人世代にもみられます。この不器用すぎる親子関係は、お金のことやライフプランのことに著しいマイナスの影響をおよぼすことが多々あります。事例を交えて解説していきます。

実家の近くに住宅を購入しようと思い立った35歳妻

<事例>

 

夫Tさん 35歳 会社員 年収600万円

妻Wさん 35歳 会社員 年収350万円

長男 5歳

貯蓄 0円

 

TさんとWさんの夫婦は35歳を迎えるころ、そろそろ家を買いたいという話になりました。

 

現在の賃貸マンションの家賃は12万円。妻のWさんが職場の先輩に、「毎月12万円というのは、住宅ローンに引き直すと4,600万円の借り入れに相当しますよ」と教えてもらったのがきっかけでした。「4,600万円の家なら買えるということか」と思い、ネットで検索をしてみると、Wさんの実家のそばに4,200万円の分譲住宅が売り出されていることがわかりました。

 

「これなら買えるのかも」とWさんは気持ちが高ぶりました。ところが夫のTさんに話すと、正直なところ住宅購入には乗り気ではないようでした。持ち家は定年退職後に自己資金で購入すればよく、それまでは資産運用をしながら賃貸マンションで十分だと考えていたのです。

 

しかし急にマイホーム熱に取りつかれたような妻に押されて、毎週末に住宅展示場を巡るように。それだけではなく、妻のWさんは平日に有休を取ってまで1人で展示場を訪問するようになりました。施主ブログやYouTubeを多く見ては情報を仕入れ、その真偽を住宅営業マンにぶつけて確認するという形で知識を増やしていきました。

 

世帯年収で950万円あることから、どの会社の住宅営業マンも上機嫌で接してきました。6,000万円程度までは金融機関の審査も通る可能性があることも知り、分譲住宅だけではなく注文住宅もなんとか狙えることもわかりました。

 

しかし問題は妻Wさんが希望する立地です。Wさんは実家の近隣を希望しています。長男がもし学校で体調不良になったとしても、両親が代わりに迎えに行ってくれるから、という理由でした。しかし夫のTさんが決して賛成しないのは想像がつきました。

 

「その近辺に引っ越したら、僕の通勤は片道1時間以上になるよ。いまは15分なのに」以前、妻の実家の近くの賃貸マンションを借りようとしたときも、夫はそう言ったのです。ただでさえ住宅購入に前向きではない夫ですから、どうやって夫を説得しようかとWさんは頭を悩ませました。

 

考えた末に思いついたのは「在宅勤務に便利な書斎を作るのはどう?」という提案でした。狭い賃貸マンションでの在宅勤務は不便で、ウェブミーティングでは子供の声が入ることもあり、同僚にからかわれることもありました。このアイデアは夫も興味を持ち、渋々ではあるものの少しずつ住宅購入を前向きに検討しはじめました。

 

妻に押され、契約を急ぐ夫

住宅メーカーを約30社見学した妻Wさんが、もっとも気に入ったのが中堅クラスのメーカー。昨今の高騰する建物価格のなかでも比較的安価で、かといってローコスト住宅のように安っぽくないところが気に入ったのです。

 

夫Tさんが妻に連れられて初めてこのメーカーの営業所を訪れたとき、すでにおおまかな間取り図ができていたのに驚きました。妻が何度も1人で商談を繰り返していて、要望を伝えていたようなのです。

 

しかしながらその間取りはTさんにとっても悪くないものでした。2階の寝室の隣に6畳サイズの書斎が設けられ、大きなデスクを造作で設置できると説明を受けました。リビングもお風呂もウォークインクローゼットも使いやすそうです。資金計画は土地と諸費用を含めて約6,200万円。35年返済として毎月の返済額は約16万円とのこと。

 

夫Tさんは「少し高いな……」と思ったものの、携帯電話料金や生命保険を安く見直せば払っていけない金額ではありません。その日はそのまま「契約」をすることに。2時間かけて契約書類の読み合わせをし署名しました。

 

「こんなに早く契約して大丈夫かい」Tさんは言います。

 

妻Wさんは「私が十分説明を聞いてきたから」と平気な様子。

 

住宅ローンは夫婦でペアローンを利用することにしました。おおまかな打ち合わせが終わったあとで、妻Wさんが担当営業マンにこう言ったのです。「次回は私の父親も打ち合わせに参加したいと言っています」

 

妻の父親が打ち合わせに参加すると聞いて、夫Tさんはとても嫌な予感がしました。「もちろんどうぞ。ご両親も気になりますよね。私からきちんとご説明します」と担当営業マンは言います。

 

いくら大人の夫婦とはいえ、我が子の大きな決断が心配な親は珍しくありません。どんな家を買ったのか、払っていけそうなのかが心配なのです。きちんと説明をすればご両親もすぐに安心するだろう、と営業マンも考えているのがわかりました。しかし夫Tさんは、「そんなに容易く事が済まないだろうな」と思っていたのです。

 

当日、その予感は的中します。妻の父親が参加したとたん雰囲気が大きく変わってしまいました。