住宅を購入しようとするとき、多くの人が疑問に思うことがあります。それは「我が家の年収では、いくらの購入予算が適正なのか?」ということです。では住宅購入の適正額を知るためにはどうしたらいいのでしょうか。本記事では共働きのSさん夫婦の事例とともに、住宅購入の資金計画の立て方や注意点について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収925万円の34歳共働き夫婦の「住宅購入計画」…FPが止めた「住宅ローン返済額」 (※画像はイメージです/PIXTA)

ファイナンシャルプランナーに相談してみた場合

■住宅メーカーで紹介されたファイナンシャルプランナー

最初に検討した大手住宅メーカーの営業マンから、ファイナンシャルプランナーを紹介されました。お金のプロだと紹介されたので、夫婦で相談会に参加しました。保険会社の営業社員の名刺だったので少し戸惑いましたが、ひととおり家計の将来図(キャッシュフロー表)を計算してくれました。

 

しかし、どうも住宅について詳しくないようです。キャッシュフロー表には建物の維持費や将来の建て替えやリフォーム費用について含まれていません。エアコンの交換費用すら性格ではありません。そして結論は、「Sさんご夫婦は5,000万円の予算で大丈夫です。自信をもって買ってください!」というものでした。「大丈夫」の根拠がかなり薄いな……というのが正直な感想。

 

ファイナンシャルプランナー(保険営業マン)はこう続けます。「老後は年金問題もあるので、保険を使ってお金を貯めたほうがもっと安心です。いまからコツコツ始めましょう」

 

そこから変額保険とドル建て保険の提案が始まりました。大変親切な方でしたが、Sさん夫婦の消化できない予算への不安感をいつの間にか保険や投資の話にすり替えられたような気がしてならず、その次からの面談は断りました。ただし、老後に向けての資産運用が重要なのは学びになりました。つみたてNISAなどの制度を活用して積み立てを続ける必要があるのは間違いなさそうです。

 

■住宅専門のファイナンシャルプランナーに相談した場合

最後にネットで見つけた住宅専門のファイナンシャルプランナーに相談してみました。

 

結論から言うと「5,000万円の予算は決して高いとは言えないが、建物の仕様と性能によってはリスクが高い」ということでした。

 

職場の上司が言うとおり、妻Yさんの収入を65歳まであるものという前提は危険であることを指摘されました。また、維持費は住宅メーカーの仕様によっても大きくことなるため、同じ5,000万円でも一概にリスクが高いとはいえないことも指摘。

 

できる限り交換費用が安価で済む設備にとどめ、屋根外壁はメンテナンスフリーの建材を選択すること、基礎や躯体の工法や気密・断熱性能が優れていることで高寿命が予想される建物であること、などの条件が揃えばS家にとって5,000万円は決して危険ではないということもわかりました。逆に交換する設備が高額であれば、たとえ気密断熱性能が高くても5,000万円の予算は危険になります。そしていくら値段が安くても劣化が早い建物では建て替えや大規模修繕が必要となり結果的に高額になります。

 

このような意味から住宅メーカー選びが本当に重要なポイントで、それを飛ばしていきなり資産運用や高額な積立保険の加入を検討するのは家計の失敗の原因のひとつです。

 

Sさんはアドバイスどおりに住宅メーカー選びを、維持費と耐久性の側面から始めました。今後60年間の維持費を含めて初めて「予算」と言えるのです。まずはここを正確に計算するために、住宅営業マンには今後に予想される維持費を列挙してもらうよう依頼したほうがよいでしょう。

 

Sさん夫婦は結果的に建物の品質にこだわりつつも、土地を郊外の安い物件を選び、総額4,500万円という資金計画で着地しました。1,400万円の貯蓄から1,000万円を自己資金として入れ、住宅ローンは3,500万円の借入となりました。毎月の返済額は約9万円、返済期間は35年です。

 

娘さんに奨学金を借りさせたくないという希望があり、私立大学への進学(アパートに引っ越し)に向けた貯蓄、そして老後への資産運用(つみたてNISA)を行うこと、妻のYさんの収入が途絶えるリスクを考慮し就業不能保険を検討すること、不要な生命保険や携帯電話などの固定費を安くすることなどを対策していくことで、住宅ローンの金利が上昇しても安全に家計運営が可能になります。

ネットの根拠のない情報をもとに住宅購入の決断は禁物

住宅購入を考えるとき、まずは身近な人のあらゆる意見を聞いてみることが第一歩です。それぞれの個人的体験からアドバイスを貰えるので、大変ありがたいことです。しかしそれらを体系的に交通整理してくれる専門家が必要です。

 

「年収の何倍までは安全」などのように根拠のない情報がネットに飛び交っていますが、その予算が安全か危険なのかは、どんな家を買うか、自分の家庭の人生設計はどうか、などの要素で大きく異なります。必ず専門家のアドバイスを得て住宅購入をしてください。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表