実際の相談事例を基に、離婚とお金について解説する本連載。今回の相談者は、50代の男性。住宅ローンの繰り上げ返済を視野に入れてバリバリと仕事に励んでいましたが、忙しさのあまり夫婦の会話は減り、結婚生活は19年目に破綻に至りました。相談者は自宅マンションの売却を考えたものの、不動産会社からまさかの事実を告げられ、身動きが取れなくなってしまいました。持ち家離婚カウンセラー・入江寿氏はどのように助言したのでしょうか。
50代の離婚…「家、売るから」宣言の夫が直面した“厳しすぎる”現実【持ち家離婚カウンセラー相談事例】 (※写真はイメージです/PIXTA)

すれ違いの生活が続き離婚を決意…自宅マンションはどうする?

転機が訪れたのは2年半ほど前、結婚19年目のことでした。

 

広子さんから突然、「離婚してほしい」との申し出があったのです。

 

思いもよらぬ妻の告白に敦さんは動揺し、虚しさとも悔しさともいえない感情に苛まれたといいます。

 

看護師として勤めていた広子さんは、長男の出産後は時短勤務に切り替えたものの仕事を続けながら、家事と子育てをすべて担い、敦さんを支えてきました。独立したばかりの敦さんも当然ながら忙しい日々を過ごしていたため、ここ数年は夫婦のコミュニケーションは極端に減り、すれ違いの日々が続いていました。

 

そんな生活を続けるうち、広子さんは密かに「子どもが成人したら、離婚しよう」との思いを強めていったのです。

 

広子さんからの突然の申し出に呆然としてしまった敦さんですが、「家族のために、こんなに仕事を頑張ってきたのに……」と考えを巡らせるうちに怒りにも似た感情が湧いてきて、吹っ切れたように「それなら離婚だ!」「家は売るから!」と伝えました。

 

2人は離婚に向けて動き出すことで一致しましたが、自宅についての考え方はすれ違いました。自宅を売却してローンを清算した後、財産分与を行おうと考えた敦さんに対し、広子さんは「子ども達と一緒にマンションに住み続ける」というのです。

 

2人の話し合いは平行線をたどりました。

 

敦さんは、3人分の婚姻費用約25万円に加え、住宅ローンと管理費・修繕費を合わせて月々約16万円の支払いを抱えています。その上で、賃料を払って自分の部屋を借りるのは経済的に難しいと考え、実家に戻ることを決断しました。

 

別居開始から2年。離婚調停がスタートした頃、敦さんは不動産会社に自宅マンションの売却査定を依頼しましたが、担当者からの回答は思いもよらぬものでした。

 

「ご依頼いただいた査定の結果ですが、1,960万円で買い取りさせていただければと思います」

 

その時点での住宅ローン残高は2,600万円。つまり、ローン残高が自宅の時価を600万円以上も上回る「オーバーローン」の状態に陥っていたのです。

 

仮にいますぐ自宅を売却しようと思えば、ローン残高と物件価格の差額である約600万に加え、70万円ほどの仲介手数料と引っ越し代金がかかることになります。引っ越し先での生活を始めるにあたっては、新しい家具や生活用品を一式揃える必要もありますから、かなりの自己資金が必要になるということです。

 

物件の売却益で財産分与しようと考えていた敦さんにとって、売却益が出るどころか、最低でも700万程度は現金を用意しなくてはならないという現実はあまりにもショッキングで、血の気の引くような思いがしたといいます。