(※写真はイメージです/PIXTA)

ブルガタ症候群は別名「ポックリ病」とも呼ばれ、突然死の原因となる不整脈を引き起こす疾患として恐れられています。もしも身近な人がこの“ブルガタ症候群”を発症した場合、周りはどうすればいいのでしょうか。また、ブルガタ症候群を救う治療法とは。東京ハートリズムクリニックの桑原大志院長が、自身が担当した50代男性の症例をもとに、詳しく解説します。

Mさんを救った「カテーテルアブレーション」

Mさんが幸運だったのは、ちょうどそのころ、ブルガダ症候群に対する「カテーテルアブレーション」の効果が論文により確認された点です。それまでの長いあいだ、ブルガダ症候群による突然死を予防する確実な治療法は、ICD(植え込み型除細動器)しかありませんでした。

 

早速、Mさんは「カテーテルアブレーション」を行うことに。右心室の心外膜に高周波電流を流し、焼灼するという簡単な手術を行ったところ、あれだけ彼を悩ませていた発作はまったく起きなくなりました。

 

現在では発作を起こすこともなく、いつ電気ショックに襲われるかという不安からも解放され、充実した日々を送っているそうです。

知識が“自分の・誰かの”命を守る…医師が伝えたい3つのこと

この患者さんのエピソードから、筆者がみなさんにぜひ知っておいていただきたいことが3つあります。

 

1.ブルガダ症候群は「検診」で早期発見が可能

先ほど、「ブルガダ症候群はなんの予兆もなくいきなり発症する」と述べましたが、ときには安静時に測定する「心電図」から異常がわかることがあります。

 

ブルガダ型心電図は特徴的な形状を示すので、異常があればすぐに発見することができるのです。もし、検診などで「ブルガタ型心電図」と指摘された場合には、ブルガタ症候群を発症するリスクがあるため、必ず専門医を受診しましょう。

 

2.緊急時は人工呼吸よりも「心臓マッサージ」を

Mさんの場合、救急車が到着するまで奥さまとお子さんが交代で心臓マッサージに努めました。実は、これが彼の命を救う大きな要因となったのです。もしお2人が心臓マッサージの手を止めて人工呼吸をしていたら、彼の命は助からなかったかもしれません。

 

心臓が停止したときには、少なくとも最初の10分間は血液中に十分な酸素が存在しているため、人工呼吸は必須というわけではありません。それよりも血液循環を優先させるべきです。

 

最近、ベルギーで行われた研究によると、「胸骨圧迫(心臓マッサージ)」と「換気(人工呼吸)」を併用した治療と、胸骨圧迫のみを行った治療では生存率は等しかったということです。

 

もし1人で緊急の場面に遭遇した場合は、必ず心臓マッサージを優先してください。心臓マッサージの正しいやり方も、念のため、記載しておきます。

 

・圧迫する場所は、胸骨の中央
肘を曲げない
・胸骨が5cmくらい沈むように押す
・1分間に100〜120回程度

 

[図表2]心臓マッサージをする様子

 

ちなみにMさんの場合、さらに幸運だったのは、ベッドではなく布団に寝ていた点です。ベッドで寝ていたら、マットレスのクッション性が災いして、胸骨の圧迫がうまく機能しなかったかもしれません。

 

通常、私たちが院内などで心臓マッサージを行うときは、患者さんの背中に板を当て、できるだけ背面を硬くしてから行います。実際、ベッドで寝ているときに発作を起こした人を床に下ろすのは困難でしょうし、危険も伴いますが、「いざというときにはベッドより布団のほうが有利である」ということを覚えておくのはいいことです。

 

3.治療法がない疾患も、完治の可能性はある

時代とともに治療法はめざましく進化しているため、以前は「治療法がない」と言われた疾患でも、時が経てば治せる可能性があります。過去に他院で治療法はないと言われてしまった人でも、時が経てば、完治できる可能性はゼロではないかもしれません。

 

諦めず、ぜひ信頼できる専門医を探してください。

 

 

桑原 大志

東京ハートリズムクリニック