予兆なく突然発症する「ブルガダ症候群」の恐怖
MさんはICUに入室したあとも、筆者の目の前でブルガダ症候群の発作を何度も繰り返しました。
「ブルガダ症候群」とは、ブルガダ型心電図という特徴的な心電図異常を示し、心室細動や心室頻拍など、突然死の原因となる不整脈を引き起こす疾患です。
働き盛りの社会人など比較的若い人が、なんの持病もないのにある日突然“ポックリ”亡くなってしまうこともあることから、「ポックリ病」とも呼ばれています。死に至ってしまう理由は、発作を起こすと心臓が細かく震えて痙攣状態となり、体に血液を送れなくなってしまうためです。
また、この病気の怖いところは、動悸や息切れ、めまいなどといった予兆がなにもなく、突然発症するという点です。まさにMさんもそうでした。
筆者はベッド脇に付き添い、彼が心室細動を起こすたび、電気ショックをかけることを繰り返しました。その後、少しずつ症状は治まりましたが、人工呼吸を抜管できたのはICUに運び込まれた日から2週間後のことでした。
一命は取り留めたものの、発作に悩まされる日々
Mさんは、生きるか死ぬかの瀬戸際から見事生還したものの、その後も発作の不安はつきまとい、さらには発作による合併症にも悩まされる日が続きます。
また、人工呼吸は行わずに済むようになったものの、認知機能は衰えたままです。常にぼーっとした状態で、ご家族のこともよくわからなくなってしまい、言葉を発しない状況が続きました。
ICUを退室して1〜2週間後、少しずつ言葉が出始め、1ヵ月後にICD(植え込み型除細動器)を体内に植え込みようやく退院することになりました。その後は自宅療養をしながら、外来での経過観察が始まりました。
少しずつ言葉も増え、表情が豊かになり、初めの発作から約2年後に職場復帰が叶いました。言葉数はまだ少なく、発言に詰まることもありますが、発症前と比較すると7〜8割程度の回復状況です。
しかし……。
その後、再びブルガダ症候群の発作が起きるようになりました。発作が起きるたび、体内に植え込んである除細動器が作動し、電気ショックが流れます。この除細動器が働くおかげで命を失うことはありませんが、それでも多いときには1日に10回以上電気ショックが発生し、日常生活に支障が出るようになりました。
なにより、「いつ電気ショックが起きるかどうかわからない」という大きな恐怖がMさんを占め、仕事を続けることも難しくなってしまいました。