(※写真はイメージです/PIXTA)

ブルガタ症候群は別名「ポックリ病」とも呼ばれ、突然死の原因となる不整脈を引き起こす疾患として恐れられています。もしも身近な人がこの“ブルガタ症候群”を発症した場合、周りはどうすればいいのでしょうか。また、ブルガタ症候群を救う治療法とは。東京ハートリズムクリニックの桑原大志院長が、自身が担当した50代男性の症例をもとに、詳しく解説します。

予兆なく突然発症する「ブルガダ症候群」の恐怖

MさんはICUに入室したあとも、筆者の目の前でブルガダ症候群の発作を何度も繰り返しました。

 

「ブルガダ症候群」とは、ブルガダ型心電図という特徴的な心電図異常を示し、心室細動や心室頻拍など、突然死の原因となる不整脈を引き起こす疾患です。

 

働き盛りの社会人など比較的若い人が、なんの持病もないのにある日突然“ポックリ”亡くなってしまうこともあることから、「ポックリ病」とも呼ばれています。死に至ってしまう理由は、発作を起こすと心臓が細かく震えて痙攣状態となり、体に血液を送れなくなってしまうためです。

 

また、この病気の怖いところは、動悸や息切れ、めまいなどといった予兆がなにもなく、突然発症するという点です。まさにMさんもそうでした。

 

筆者はベッド脇に付き添い、彼が心室細動を起こすたび、電気ショックをかけることを繰り返しました。その後、少しずつ症状は治まりましたが、人工呼吸を抜管できたのはICUに運び込まれた日から2週間後のことでした。

 

一命は取り留めたものの、発作に悩まされる日々

Mさんは、生きるか死ぬかの瀬戸際から見事生還したものの、その後も発作の不安はつきまとい、さらには発作による合併症にも悩まされる日が続きます。

 

また、人工呼吸は行わずに済むようになったものの、認知機能は衰えたままです。常にぼーっとした状態で、ご家族のこともよくわからなくなってしまい、言葉を発しない状況が続きました。

 

ICUを退室して1〜2週間後、少しずつ言葉が出始め、1ヵ月後にICD(植え込み型除細動器)を体内に植え込みようやく退院することになりました。その後は自宅療養をしながら、外来での経過観察が始まりました。

 

少しずつ言葉も増え、表情が豊かになり、初めの発作から約2年後に職場復帰が叶いました。言葉数はまだ少なく、発言に詰まることもありますが、発症前と比較すると7〜8割程度の回復状況です。

 

しかし……。

 

その後、再びブルガダ症候群の発作が起きるようになりました。発作が起きるたび、体内に植え込んである除細動器が作動し、電気ショックが流れます。この除細動器が働くおかげで命を失うことはありませんが、それでも多いときには1日に10回以上電気ショックが発生し、日常生活に支障が出るようになりました。

 

なにより、「いつ電気ショックが起きるかどうかわからない」という大きな恐怖がMさんを占め、仕事を続けることも難しくなってしまいました。

 

[図表1]ICD(植込み型除細動器)をつけた心臓

 

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