都内在住で、順風満帆なキャリアを歩んできたAさん(48歳)。しかし、ある年の健康診断をきっかけに「大腸がん」であることが発覚します。家族もおり、お金まわりに不安を覚えたAさんでしたが、新卒時にがん保険に入っていたことを思い出し一安心。しかし、保険会社から「衝撃のひと言」を言われてしまうのです……。FP Office株式会社の清水豊氏が、48歳のAさんの事例をもとに、がん保険の「ワナ」と対策についてみていきましょう。
年収1,200万円の48歳・エリート会社員、ステージIIIの大腸がんに…退院後、おもわず絶句した“保険会社からのひと言”【FPが警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

がん治療は高額化・長期化の傾向…中長期のマネープランが必須

大腸がんに限らず、最近のがん治療の傾向として押さえておきたいポイントは「高額化」・「長期化」の2点です。

 

先進医療や分子標的薬、免疫療法などの新しい治療法が続々と登場している反面、いずれも費用が高額になってきています。また、生存率の向上や再発・転移によりがん治療が長期化しています。一般的に術後の定期検査の目安は5年間とされていますが、がんの種類によっては経過観察機関を10年としているものもあるようです。

 

したがって、がん保険の加入に際しては、中長期のマネープランが必要になります。

 

がん罹患後「2~3割」が退職を選ぶ

厚生労働省の研究班のがん患者に対する調査(※1)によると、がんと宣告された際に診断時に仕事に就いている割合は51%で、このうちがんが原因で仕事を辞めたと思われる割合は32%となっています。これを病期別にみると、Ⅰ期24%、Ⅱ期26%、Ⅲ期34%、Ⅳ期41%と、重症化するにつれて離職率も高くなっていることがわかります。

 

収入面についても、がん罹患後に30%の人が「収入が減った」と回答しており、減少割合は3割減……19%、2割減……20%、1割減……14%と、2割以上減少した人が4割近くにのぼる結果になっています。

 

また、ライフネット生命が、がん罹患時に就労していたがん経験者を対象に行った調査(※2)では、罹患前後の収入が減った割合は、正社員(18%)や公務員(15%)といった正規雇用に比べ、派遣社員(39%)、パート・アルバイト(29%)、契約社員(22%)と、非正規雇用のほうが収入が減ったと回答している割合が高いのが特徴的です。

がんとお金の問題は継続的…治療費よりも「収入減」のほうが深刻

「がんとお金」の問題というと、がん治療にかかる費用負担ばかりが着目されがちですが、先述したように仕事による収入が減少してしまう点に注意が必要です。

 

特に、40代後半から50代前半にかけてのもっとも収入が上昇する時期にがんに罹患すると、住宅ローンの返済や子どもの教育費、生活費などで家計が困窮してしまううえ、老後資金の準備がままならない可能性が高まります。

 

がん罹患後に復職か退職を選ぶ際に考えるべき要素は、治療内容やスケジュール、勤務先の支援制度や世帯の経済状況など多岐にわたります。これらの要素をふまえ、病状などに応じて1~5年など短中期のキャッシュフローを作成し、治療費等の支出増加と収入の減少が家計にどのように影響を与えるかシミュレーションしてみることが大切です。

 

まとめ…保険の見直し・加入時は慎重に比較を

がん保険を見直したり、新たに加入を検討される際には、同じような保障でも支払い条件が違うことがあるため、その点を意識して各社のがん保険を比較するとよいでしょう。

 

単なる安さだけでなく、ご自身がどのような保障を重視したいか、それを満たしてくれる保険はどれかという視点で選ぶことが大切です。

 

また、保険に加入したら安心ではありません。ライフステージが変わるたびに、その保険の支払い条件をしっかりと見直すようにしましょう。

 

 

清水 豊

FP Office

ファイナンシャル・プランナー

 

※出典

1.https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/18023

2.https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/2017-6788.pdf