妻が65歳以下の夫婦のうち、4~5組に1組は妻が専業主婦です。そのような家庭で妻が亡くなった場合、家計にはどんな影響があるのでしょうか? 単純に考えると、専業主婦で無収入なので金銭的な影響は少ないようにも思えますが、専業主婦の妻の死後、家計破綻してしまうケースは意外にも少なくないのです。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、専業主婦の妻が亡くなった場合の家計の損失について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
37歳・営業マン、年収1,100万円で勝ち組だったが…「無収入の専業主婦・妻」の急死でまさかの「住宅ローン破産」のワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

妻が「専業主婦」である割合が「23.1%」にも上る日本

女性の社会進出が進む現代において、「専業主婦」の割合はどのくらいでしょうか。内閣府の『男女共同参画白書令和四年版』によると、65歳以下の妻がいる世帯のうち、妻が専業主婦である割合は23.1%であることがわかります。世帯数にして約458万世帯です。想像以上に多いと思う人もいるかもしれません。

 

妻が専業主婦であるのには、夫の収入が比較的高くなければ家計の収支が成り立たないのが現実です。住宅ローンを借りて住宅を購入する場合はそれがより顕著です。

 

ソニー生命が行った『女性に活躍に関する意識調査2022』によると、「専業主婦になるために夫の年収は少なくともどのくらい必要だと思うか」という質問に対して、回答は平均980万円でした(子供2人の場合)。夫の単独の収入で家計を築いていることを「一馬力」と呼ぶことがあります。夫の年収に相当な馬力が求められるのです。

 

このような家庭では、夫が亡くなる(あるいは病気などで働けなくなる)リスクを常に感じているため、夫が高額な生命保険に入っている傾向があります。しかし、その逆の状態を想像したことはあるでしょうか。もし専業主婦の妻が亡くなったら? 家計にどのような影響があるか具体的に考えたことがある家庭は多くはないかもしれません。

 

そもそも無収入の妻なので亡くなっても家計に影響なし、でしょうか。ところが専業主婦の妻が亡くなったあとで家計が破綻してしまうケースが意外にも少なくないのです。実際の事例をモデルにして解説していきます。

年収1,100万円の37歳高級輸入車セールスマン

Aさんは37歳。高級輸入車ディーラーで営業マンをしています。年収は1,100万円です。この年収は半分以上が歩合給であり、固定給の部分は多くはありません。Aさんは大学を卒業してこのディーラーに就職しました。

 

30歳を超えるころから営業成績が上向き、現在では富裕層の顧客を多く抱えています。人当たりがよく気遣いができるAさんは、開業医や勤務医、企業経営者、成功した自営業者などから支持され、毎年新車に乗り換える人も少なくありません。

 

妻のMさんはAさんと同じ歳。高校を卒業してから結婚するまではコンビニのアルバイト、結婚してからは夫の希望もあって専業主婦をしていました。派手なところがない妻のMさんは、堅実に家計を切り盛りしていたためお金のトラブルもなく、夫のAさんは妻に家計のことを任せっきりでした。

 

32歳のときにAさん夫婦は4,500万円の住宅ローンを借りて住宅を購入しました。Aさんの年収は1,000万円を超えていたこともあり、特に返済に困ることはなく、むしろ早めの繰り上げ返済をして完済しようという計画になっていました。

 

突然の悲劇…妻Mさんが乳がんにより急逝

しかし2年前、Aさん家族に悲劇が襲います。妻のMさんは35歳のときに乳がんを罹患。発見が遅く、治療を続けていたものの、残念ながら亡くなってしまったのです。残されたのは4歳の長男と2歳の長女。母親が亡くなったこともまだ理解できていないようです。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

夫のAさんは悲しみに暮れていましたが、葬儀がひととおり終わったころから、これからの家計のことを冷静に計算してみようと思いました。しかし、仕事が忙しく家事や子育てにはまったく参加してこなかったAさんにとって、家計のことはまったくの無知。

 

妻のMさんは苦しい闘病生活もあって、身の回りの整理や遺言書の作成などは一切できませんでした。Aさんは子供の保育料がどの口座から引き落としされているかすら知りません。我が家に一体いくつの銀行口座とクレジットカードがあるのか、毎月の支払いはどこに対して、どの口座から引き落とされるのかなど、まったくわからない状態だったのです。

 

Aさんがざっくりと計算したところ、次のような収支を予想しました。

 

収入

Aさんの仕事:1,100万円(多少変動あり)

遺族基礎年金:約125万円

 

支出

特に増える要素なし

 

住宅ローンはAさんの単独名義であるため、妻が無くなっても免除になりません。しかし、そもそも妻は無収入であったため影響はないだろうと思いました。むしろ当面のあいだは遺族基礎年金が支給されるため、収入が増えます。妻の生命保険は医療保険だけで、死亡保障はありませんでしたが、特にお金に困ることは無さそうだと考えました。

 

貯蓄は普通預金に約2,000万円が入っているのを見て驚きました。Aさんは結婚するまで貯蓄が1円もなかったことを考えると、あらためて「しっかり者の妻」だったのだと痛感しました。しかし、Aさんはすぐに現実に直面してしまいます。あまりに簡単なことに気が付かなかったのです。