妻が65歳以下の夫婦のうち、4~5組に1組は妻が専業主婦です。そのような家庭で妻が亡くなった場合、家計にはどんな影響があるのでしょうか? 単純に考えると、専業主婦で無収入なので金銭的な影響は少ないようにも思えますが、専業主婦の妻の死後、家計破綻してしまうケースは意外にも少なくないのです。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、専業主婦の妻が亡くなった場合の家計の損失について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
37歳・営業マン、年収1,100万円で勝ち組だったが…「無収入の専業主婦・妻」の急死でまさかの「住宅ローン破産」のワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

次第に見えてきた今後の厳しい家計

(※画像はイメージです/PIXTA)
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そこでAさんはファイナンシャルプランナーに相談することにしました。今後の正確な家計の収支を計算してもらいたかったのです。もし歩合給がすべて無くなり、土日休みが取れる内勤職に異動できた場合はどうなるか、ファイナンシャルプランナーが計算してみました。そこで冷静に計算した今後の収支は、Aさんが自分で計算したものとはまったく異なるものでした。

 

収入の減少分

歩合給:月35万円(年間420万円)減少

ボーナス:年間100万円減少

私有自動車借上げ費:月2万円(年間24万円)減少

残業代:月3万円(年間36万円)減少

 

合計640万円も減少します。このほかに配偶者控除も無くなります。また、収入が下がるため住宅ローン減税のメリットも十分に享受できません。

 

内勤職となった後の収入

固定給+交通費+ボーナス:年間460万円

遺族基礎年金:年間約125万円

 

遺族基礎年金が支給されますが、それ以上に減少する収入が多いことがわかります。

 

さらに計算していくと、生活費の上昇が見られました。妻のMさんがしっかり管理してくれた支出は、最近増える一方です。料理が不得意なAさんは、特に食費の増加に頭を悩ませています。妻のMさんが残していた紙の家計簿があったため現在の支出と比較できました。

 

支出の増加

食費:月6万円増加

外食費:月1万円増加

日用品・衣類:月2万円増加

 

やりくりが苦手な部分の支出が無限に増えていく気がするほどです。さらには前年度の年収から計算された高額な住民税が必要になります。手取りはさらに減ります。一方で支出が減少する部分はごくわずかです。

 

支出の減少

妻の携帯電話:月2,000円

妻の生命保険の掛け金:月4,000円

光熱費:電気料金と水道料金が合計2,000円減少

妻の交際費:月1万円

Aさんの仕事上の交際費:月3万円

 

妻のMさんは自動車に乗らず、自転車で買い物などをしていました。Aさんは妻が亡くなったからといって減る支出が少ないことに驚きました。ワンオペ育児でありながら支出を切り詰めて貯蓄に回していた妻に本当に頭の下がる思いです。

 

「僕の人生、詰んでしまいましたかね……?」

 

Aさんは今後の人生に絶望を感じてしまいました。

今後の住宅ローン返済は可能なのか?

(※画像はイメージです/PIXTA)
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遺族基礎年金を含めた年収が585万円になったAさんが、住宅ローンを返済していくことは可能でしょうか。ローンを返済しながら育児をし、子供の大学進学費用を貯めていく必要もあります。自宅建物のメンテナンスや設備の交換もあります。自動車の買い替えもあるでしょう。

 

ファイナンシャルプランナーが今後のキャッシュフロー表(未来の家計収支表)を作成してみたところ、もはや破綻の未来しかないことがわかりました。このままでは貯蓄の2,000万円は10年ももたずに尽き果てます。私立高校の授業料を用意することも厳しい状態です。

 

「どうしたらいいでしょうか。はっきり教えてください」とAさんがいいます。ファイナンシャルプランナーが提案したのは次のような方法です。

 

・住宅は任意売却をし、オーバーローン(借金の残り)となった分は貯蓄で完済する

・勤務先近くの賃貸物件に引っ越す

・Aさんが所有する高級輸入車は売却(顧客の子息に売却の可能性あり)

・内勤職に異動することができたら、土日は休み、子供を優先にする

・食費を抑えるため料理を覚える

・自分に万が一があったときのために生命保険に加入する

 

特に飛び道具のような対策は必要ありません。それでも収入が585万円と少なくはないため、支出を抑えたら生活していくことは可能です。貯蓄も少しずつですができるでしょう。つみたてNISAなどを活用して老後資金の準備をすることも非常に重要になります。

 

「少し希望が出てきました。これからは子供のことを優先ですね。妻に任せっきりだったのでそれだけが後悔です」