コロナ禍が始まった2020からの3年間、男性の2.2倍の女性人口が東京都に集中している。東京一極集中という名の「若年未婚女性の集中」の影響を理解しない限り、出生率に関する議論は、単なる都会叩きの域を出ることはない。ニッセイ基礎研究所の天野 馨南子氏が、「本当の少子化」について解説する。
出生「数」変化で知る都道府県の「本当の少子化」(2)-東京一極集中が示唆する出生減の理由- (写真はイメージです/PIXTA)

【東京一極集中で激変した出生地図】

 

東京一極集中の影響を単なる地方の社会減の加速として捉えてはならない。

 

東京一極集中は統計上、20代前半の女性がけん引して発生する地方の人口減という事象であるため、これはすなわち、「母親候補人口」の地方から都市への入れ替えが発生している事象ともいえる。四半世紀にわたって母親候補人口の入れ替えが継続した結果、エリアの出生増減に大きな影響をもたらすこととなった(図表1)。

 

東京都に絶え間なく転入してくる若い女性がもたらす数年後の婚姻数増加と、さらにその数年後の出生数増加によって、1995年と比べた2021年の出生数は、全国では68%水準まで落ち込んでいるにもかかわらず、東京都はほぼ変わらない99%水準を維持するという結果となっている。つまり、この四半世紀では、東京都は少子化していない。

 

全国一低いとされる東京都の出生率は、この指標の高低に大きく影響する20代女性の地方からの横滑りによる増加、それも就職にともなう未婚女性人口の増加によって必然的に抑えられている。

 

世界で見るとアジア系移民を中心とする若年移民立国となったカナダに似た構造となっている。カナダは、出生率こそ低位水準にあるものの、出生数は一向に減らない、少子化(=出生減)とはならない、という状態にあることは、「出生「数」変化で知る都道府県の「本当の少子化」(1)」でも説明した。

 

東京都が一極集中の影響でこの四半世紀で少子化とは言い難い出生減水準の状況となったその一方で、東北地方の出生減が加速した。

 

半世紀で見ても、もともと出生減割合でワースト上位に位置していた東北地方だが、東京都にアクセスのよい立地と交通利便性の上昇が影響し、東北エリアから大量の就職期の若年女性が東京都に転入超過している。将来の母親候補となる若年女性人口減が生じた結果、東北エリアの5県がこの四半世紀における少子化ワースト5の上位を独占する、という状況に陥っている。

 

 

東北エリアの中核となる大都市、仙台のある宮城県を除く東北6県のうち5県が、出生減割合=少子化進行速度でワースト5となり、人口100万人以上の大都市を抱える都道府県としてみても、北海道に次いで宮城県が2番目にワーストランク入り(23位 38%減少)となった。

 

東京一極集中前の半世紀単位で見ると、宮城県は転入超過県であったことを考えると、この四半世紀の東京一極集中の影響の大きさが窺い知れる。

 

東北エリアの出生減はどの地方エリアよりも深刻で、この四半世紀で秋田県は約6割減、その他4県も約5割減である。
 

厚生労働省の人口動態調査婚姻統計を分析すると、初婚で結婚する男女の結婚年齢のピークは女性が26歳、男性が27歳となっている。つまり、前の世代の男女が婚姻に至るピークを待たずに、出生数が半数になるという、あまりにも過激な出生減が東北地方で発生している。

 

このような状況で、出生率低下だけをにらんだ少子化対策しか打たれていない場合、「ウ.エリアからの未婚女性流出⇒エリアの未婚女性割合の低下による出生率上昇」となっているエリアは、むしろ女性のエリア外流出が高まるほど上昇する出生率に安堵し、この問題にまったく目を向けないという致命的な状況に追い込まれていく。

 

半世紀でみた都道府県単位の出生減を示した前回レポート(1)と、四半世紀で見た図表1を比べると、全国平均より出生減が良好なエリア数の減少が目に付く。半世紀では19エリアが全国平均を下回る水準での出生減であったが、四半世紀では12エリアに減少した。つまりそれだけ、都道府県間で少子化問題の格差拡大が進行してしまった、ということになる。

 

東京一極集中という名の「若年未婚女性の集中」の影響の原因把握と解消なくして、日本の国土の大半をしめるエリアにおいて、その少子化対策が奏功することはないだろう。