世帯年収1,020万円のN夫婦は、30代で決断したあることが原因で世帯年収が700万円にまで減少してしまいました。世帯年収が700万円であれば予算2,000万円の住宅購入自体は無理のないことのはずですが、FPからの意見では、むしろこのままでは家計破綻の未来まで待ち受けていることが告げられます。一体なにがあったのでしょうか? 本記事では、N夫婦の事例とともに年収に基づいた適切なライフプランニングについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収1,020万円・30代夫婦の絶望…収入3割減、住宅ローン2,000万円も組めず「ただ生きているだけの人生」のワケ 【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「持ち家を買うのは不可能です。諦めてください」

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

FP事務所のFPがNさんの家計について、詳細に分析していきました。その結果、FPが冷静にこういいました。

 

「Nさん、家を買うのは不可能です。家は諦めてください」

 

「え、なぜ?」と驚くNさん夫婦。「5,000万円はやはり高いですかね……?」

 

FPはこう告げます。

 

「いえ、値段が2,000万円だとしても家を買ってしまうと、将来は破綻するようです……」

 

驚く夫婦に、FPが丁寧に説明してくれました。

 

夫Nさん:33歳 会社員 年収360万円 昇給なし、退職金500万円

妻Kさん:33歳 看護師 年収340万円 昇給なし、退職金なし

子供:4歳と2歳

貯蓄:300万円

現在の家賃:7万円

 

Nさん夫婦の希望は次のようなものでした。

 

・子供は東京都内の私立大学への進学が希望

・奨学金は借りさせたくない

・自動車は10年ごとに400万円の普通車と、200万円の軽自動車への乗り換え

・毎年2回は旅行に行きたい

・趣味のバンド活動のために月に1度は東京都内で仲間と集まりたい

・なるべく大きな建物が望みなので、土地は郊外の安い立地でいい

 

この前提で将来の収支を計算すると、10年後には貯蓄が尽き借金状態となっていきます。実質的に家計破綻です。住宅ローンを2,000万円にし、子供の大学進学はなしということにしても、65歳で破綻します。老後に路頭に迷うことになってしまいます。どんなに安い家を買ったとしても、メンテナンス費用や税金、保険が必要である以上、Nさんの家計では購入は不可能のようでした。

 

「なぜなのでしょうか。特に贅沢をしているわけではないし、物価が安い田舎に住んでいるはずです。確かに年収は低くなりましたが、地方としてはそれほど貧しくないはずです」

 

夫のNさんは不満げです。FPからはこう説明がありました。

 

「物価が安いというのはおそらく思い込みだと思います。家賃や土地が安いというだけで、建物価格は安くはありません。昨今の物価高で光熱費はこれからも上昇することが考えられ、食料品や日用品も高騰していくかもしれません。物価上昇率を約0.5%で計算していて、急激な物価上昇はこれでも考慮していないのです。それと……失礼ながら、収入に対して毎月の生活費が大きすぎます」

 

確かに東京に住んでいたころと比べて生活レベルを下げることができないままでした。贅沢しているつもりがなくても、年収に対して生活費がかかりすぎています。 黙ってしまうNさんの隣で、妻のKさんがいいます。

 

「住宅ローンの金利が上昇するように計算しているようですが、以前相談したFPさんは、変動金利は当面上がらないと力説していました」

 

FPが答えます。

 

「FPはそれぞれ持論があるかもしれませんが、シンクタンクの研究員ではないので今後の金利を予測し断言する立場にはありません。あらゆる可能性をシミュレーションする立場です。金利が上がっても、上がらなくても、家計は行き詰まるという結果です……」

 

「ではどうしたらいいのでしょうか」

 

Nさん夫婦が将来破綻する原因は明確です。優先順位が決められていなく、すべてを叶えようとしているからです。それが叶えられるほどの十分な収入がない、という現実を理解していないともいえます。子供の教育、住宅、趣味、自動車、生活のサイズ、などの理想についてどれを優先し、どれを切り捨てるかという取捨選択を行う必要があります。

 

Nさんは移住を決めた最初の「年収が下がったとしても豊かな生活ができる」という理想と、年収という現実にギャップがあることに気づいていません。

 

地方都市だとしても物価が特段安いわけではなく、むしろ自動車の維持費や燃料費などはそれまでよりも高くなってしまいます。大学進学も多くは親元を離れて引っ越しする必要があり費用が大きくかかります。移住してから年収が夫婦で3割下がっているという現実をNさん夫婦は軽く見過ぎでした。