年金制度は「貯金」ではなく「保険」
そこで筆者は、「斉藤さんはお車に乗られますか?」と伺ってみました。すると怪訝そうな顔で「はい、車は持っていますよ。ドライブ好きですし」とおっしゃるので、こう言葉を続けてみました。
「車に乗られる方は、必ず保険をかけていらっしゃると思いますが、無事故で1年過ごして保険金をもらわなかったら、損したって思いますか?」
「それは、事故がないに越したことはないでしょう。保険ですから、保険金を受け取らないことのほうがむしろ良かったって意味ですよね」
「そうですよね。支払った分が戻らなくても、保険なら納得できますよね。実は、年金って貯金ではなく“保険”なんです。だから、早く亡くなったことで年金が少なくて損をしたというのではなく、想定以上に長生きしたときでも、終身で年金が支払われる保障があるということのほうが重要なんです」
斉藤様は、まだ納得できない様子。筆者は続けます。
「年金には3つの役割があります。まず、年金に加入していた方が亡くなると、遺された家族に『遺族年金』が支払われます。これは国の生命保険です。次に、障害を負うと、『障害年金』が支払われます。これは、働けなくなるリスクをカバーするための保険です。
そして『老齢年金』は、長生きに備える保険です。貯蓄だと考えると、いくら支払って、いくら受け取るという損得計算が気になると思いますが、保険だと思うと少し感覚が変わってきませんか?」
斉藤様のお顔つきが少し変わりました。「年金は3つの保険のパッケージ」。こういう話は、意外と知られていません。
年金は「賦課方式」ではなく「積立方式」がいいのではないかという方もいらっしゃいますが、私たちは実際何歳まで生きるのか予測できません。そのようななか、個人個人で自分の将来に向けて積立を行うのは無理があります。やはり“保険”と捉えて、みんなで保険料を負担し、長生きに備えるのが合理的といえるでしょう。
「なるほど、今までいろいろと年金について勉強してきたつもりですが、これまでの情報は間違っていたのかもしれませんね。今日聞いたお話は知らなかったことばかりです」
年金制度の誤解3.「もらえる年金額が少ない」
でも……と、斉藤様が鞄から出したのは、筆者が持参するように依頼した「ねんきん定期便」です。
「今回持参するように言われて、初めて『ねんきん定期便』を見てみたのですが、やっぱり年金これしかないのかってがっかりしたんですよ」とおっしゃいます。
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」は、「50歳以上」と「50歳未満」では形式が異なります。斉藤様はまだ50歳になっていないため、記載されているのは「現時点での年金額」のみ。つまり、今後少なくとも60歳までは年金に加入する義務がありますが、その間で増やせる年金額が反映されていないのです。
年金には公式があり、年金額はその公式に則って計算されます。たとえば、斉藤様は会社員ですから、厚生年金に加入しているため毎月厚生年金保険料を支払っています。会社も同様に保険料を負担しますが、この負担した保険料でもって将来の「老齢年金」を計算します。
また、厚生年金に加入していると自動的に国民年金にも加入することになります。こちらは、1年の加入で将来受け取る老齢基礎年金が約2万円になる計算です。つまり、20歳から60歳までの40年間フルで加入することで、約80万円が受け取れるという意味です。斉藤様は60歳まであと13年ありますから、国民年金だけでもこれから26万円年金額を増やすことが可能です。
厚生年金は、別名「報酬比例」とも呼ばれるので、報酬(給与)の額によって将来の年金額が変わります。ざっくりとした式をお示しすると、年収×0.55%×厚生年金加入年数で、計算されます。
つまり、斉藤様が仮に年収700万円で60歳まで働くと700万円×0.55%×13年となり、年金が約50万円増えます。また、最長70歳までは厚生年金に加入できるので、60歳以降年収450万円でさらに10年働くと450万円×0.55%×10年となり、約25万円増えます。
ただし厚生年金の計算の元となる年収の考え方ですが、給与は65万円が上限、賞与は150万円が上限となりますから、それ以上は計算に含まれないので注意が必要です。
このように、これからの年金加入により「創った」年金額が、ねんきん定期便に記載されている「現時点での年金額」に加算されていきます。
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