大手企業に勤める、世帯年収1,700万円のA夫妻。これまでお金に困った経験はなく、生活費を正確に計算したことはありませんでした。そのようななか、ふと老後いまの生活水準で暮らせるか気になり、定年を前にFP事務所へ相談に訪れた2人。FPによるシミュレーションの結果「驚きの事実」が判明します。FP Office株式会社の石井悠己也氏は、2人にどのような助言を行ったのか、みていきましょう。
世帯年収1,700万円の59歳・共働き夫婦「なんとかならないか」…ねんきん定期便をみて愕然とした“老後の赤字額”【FPが警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「娯楽三昧」の生活で、予想額を20万円以上オーバー

Aさんの年収が1,200万円だとすると、手取りは約847万円。奥様の年収500万円から手取りを計算すると、約385万円となります。すなわち、手取り年収は合計1,232万円です。この1,232万円から住宅費・貯蓄・保険にかけている金額を引くと、

 

1,232万円-(住宅費:306万円)-(貯蓄:240万円)-(保険:40万円)=646万円

 

この646万円を月で割ると、

 

646万円/12ヵ月=53.8万円

 

1ヵ月あたりの生活費は、53.8万円だということがわかりました。先ほどお聞きした「30万円ぐらい」から大きくオーバーしています。

 

共働き世帯の場合、お互いの支出を管理する機会が少ないため、「思ったよりも使ってしまっている」というケースが多く見受けられます。A夫妻も例外ではなく、お子様の教育にかけていたお金をそのまま貯蓄に回すことで老後資金の準備を行っているという状況でした。

 

特に大きかった支出は、「娯楽」です。年に1度は海外旅行へ行き、国内も年数回は行かれるとのこと(年間約50~100万円)。

 

そのほか、ご主人は月に数回会社仲間とゴルフへ(1回2万円~3万円)。一方の奥様もミュージカル鑑賞がお好きで、年に数回ご主人やご友人と観に行かれるそうです(食事代など含め、1回あたり1人2万円~3万円)。

 

これだけでも、年間200万円前後は使っている計算になります。

 

「終の棲家」にしたいが…懸念されるローン残債と管理費、修繕積立金の増加

A夫妻は35歳のとき、35年ローン(固定金利2.5%)を組んで5,500万円のマンションを購入しています。住宅ローンの残債は10年ほど残っていますが、住み替えなどは考えられないとのこと。思い出の詰まった我が家には愛着も強く、終の棲家として考えているそうです。

 

住宅費の詳細は以下のとおりです。

 

返済額……月々19.6万円
管理費・修繕積立金……月々5万円

年間合計……295.2万円

 

終の棲家として考える場合、住宅ローンを完済したあとも、毎月5万円(年間60万円)の管理費・修繕積立金は払い続ける必要があります。さらに、今年2度目の大規模修繕工事を控えたマンションは、修繕積立金の増加が見込まれており、さらに負担が増える可能性があります。

 

65歳から受け取れる年金額は…

では、お2人は「共働きでこんなに働いていたんだから年金も多いだろうし、大丈夫」とおっしゃっていましたが、実際いくら年金がもらえるのでしょうか。

 

標準報酬月額などで算出するシミュレーションソフトも多くありますが、今回はねんきん定期便の持参をお願いしました。

 

ねんきん定期便によると、A夫妻が老後受け取れる年金額は以下のとおりです。

 

Aさん……233万円
奥様……173万円
世帯合計……406万円

 

これは現役時の世帯年収(手取り年収)と比較すると、3分の1程度の収入です。ただし、こちらはあくまで支給額ですから、下記のような税金や保険料が控除され、実際の手取りはさらに少なくなります。

 

年金から控除される税金や保険料は下記のとおりです。

 

・所得税
・住民税
・国民健康保険料(75歳未満)、または後期高齢者医療保険料(75歳以上)
・介護保険料

 

年金支給額の約10%~15%が控除され、手取りは約360万円ほどになりそうです。「え……こんなに少ないの?」思わずつぶやいた奥様の表情が印象的でした。

 

さらにそのほかにも、退職翌年の住民税などは前年度の収入で計算されるため、現役時と同水準の税金がかかります
※ 所得税は源泉徴収で納付。

 

また、退職所得控除を超えた分の退職金にも所得税がかかるのですが、Aさんの場合退職所得控除が2,060万円。3,000万円の退職金であれば、ざっと100万円程度の税金がかかることになります。