生活保護は、貧困によって最低限の生活すらできなくなった場合に、最後のセーフティネットとして機能するものです。しかし、誤解や偏見のために、本来受給すべき人が受給できていない実態があります。本記事では、これまで10,000件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏が、著書『わたし生活保護を受けられますか』(ペンコム)から、生活保護についての正確な知識を解説します。
生活保護の「不正受給率1%未満」だが…数字から見えない“想像を絶する実態”と不正受給があとを絶たない「悲しすぎる理由」【特定行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「生活保護と借金」への誤解から不正受給となったケース

◆以前に生活保護を受給している両親が作った借金を、別居の娘さんが肩代わりして返済していたケース

「生活保護と借金」についての誤解が引き起こした悲劇の例です。

 

ある老夫婦が生活保護を申請するまでの間に、生活苦から借金を重ねてしまっていました。借りたものは返さなければいけないという使命感から、生活保護を受けていない別居の娘さんが代わりに返済をしていたというケースがありました。

 

これをケースワーカーが把握しておらず、本人たちも悪意なく「借りていたものを返さなければいけない」、「生活保護費から借金返済をしてはいけない」という思い込みから、家族に無理を言って頼んで返済してもらっていたことを、役所に何年も伝えていなかったのです。

 

夫婦の生活は生活保護費の範囲内でつつましく、また娘さんも両親の面倒を見ることができない代わりに、せめて生活保護を受けるまでに両親がしてしまった借金は返済しなければいけないと思い、無理をして毎月数万円の支払いをしてきたのです。

 

これが不正受給とされてしまい、生活保護法第63条に基づく返還金として、その後は毎月夫婦の生活保護費から数万円が天引きされていたのです。

 

【生活保護法】

第63条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

 

娘さんは娘さんで、その後もご両親の生活保護受給前の借金の支払いを毎月数万円しており、この老夫婦は生活保護を受けているのに最低生活以下の暮らしを余儀なくされる状態で、筆者の事務所に相談に来られました。

 

これは大阪市某区におけることでしたが、すぐに行政書士から福祉事務所に実態と改善の申し入れを行い、結果として生活保護費から返還金の天引き徴収はなくなり、毎月5,000円という無理なく返していけると生活保護受給者の老夫婦が納得した金額を、自宅に届く振込用紙で毎月返還していくということになったのです。

 

そして、娘さんが長年肩代わりしていたご両親の借金については、法テラスの制度を利用して弁護士さんへの手数料等の負担もなく、自己破産手続きができたため、以後の支払いもなくなりました。