不正受給問題 その中身は
生活保護費は国民が納める税を財源とする公費によって賄われているため、公平適切に支給されるべきことは当然です。
しかし、「生活保護制度に対する国民の理解を得る」、「信頼性を確保する」といった大義名分を盾に、実際の生活保護受給者の方本人の悪意による不正受給は少ないにもかかわらず、ひとたび不正受給があるや、ことさらにクローズアップする報道や、そのニュースに関して、過激なコメントがここぞとばかり大量に書き込まれる社会的風潮は、弱者のみならず日本社会全体に負の影響をもたらしていると感じます。
また、行政においても、2017年1月には、神奈川県小田原市の福祉事務所の職員複数が、「保護なめんな」といった文言が記載されたジャンパーを10年ほどの長きにわたり着用し、受給者宅を訪問していたことが大々的に報道され、その後、市長が謝罪するという問題も起こりました。
ここでは、「不正受給」と言われるケースについて事例を紹介します。
一緒に考えていただければと思います。
◆不正受給額は保護費総額1%にも満たない。はたして不正?と疑問に思えるようなケースも
厚生労働省は毎年不正受給の件数や割合を公表しているわけではありませんが、平成27年(2015年)度の全国厚生労働関係部局長会議の資料(社会援護局詳細資料2)の中で、同年度の不正受給の件数と金額を公表しました。
不正金額は約170億円で、これは割合で見れば、同年度の保護費総額約3兆8億円の1%に満たない額です。
とはいえ、このような割合の話をすること自体に、私はあまり意味はないと考えています。
実際のところ、不正受給として平成27年度に全国集計されたこの内容についても、行政書士として疑問に思う点が多々あるからです。
◆稼働収入の申告漏れと過小申告が全体の60%近く。しかし、申告のルールを理解できていない人も多い現実
たとえば、生活保護行政を担う自治体が本来やるべき資産状況調査を生活保護申請時に行っていなかったために、結果として不正受給となったケースもあります。ホームレスで通帳もカードも何もないという申請で、行政側が業務多忙などの理由から資産調査を怠った事例もあります。
また、上記の厚労省資料によると、不正受給の内訳では、稼働収入の申告漏れと過小申告が全体の60%近くを占めています。ただ、日々生活保護を受けている方や申請をされる方のサポートをしている行政書士として、現実問題、この収入申告のルールを理解する能力に乏しい人も多々見てきました。
次ページからケースを紹介していきます。