生活保護の制度は、受給者本人以外の人をも救うことがあります。たとえば近年、収入のない子を養ってきた親が高齢になり、家計が苦しくなって、子の生活保護申請をする事例が増えています。本記事では、これまで10,000件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏が、著書『わたし生活保護を受けられますか』(ペンコム)から、70代の父親と30代の息子の実例をもとに解説します。
「もう限界です…」“70代の父”が深夜パートで「精神疾患・引きこもりの“30代息子”」を養い力尽きたが…一転、父子ともに救われた「生活保護受給」までの顛末【特定行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

長年引きこもりの30代息子。「援助も限界」と70代父親

「統合失調症がある息子がいて一緒に暮らしてきたものの、同居も生活の援助も限界です」

 

ホームページの問い合わせフォームから連絡をいただいたのは70代の男性。

 

役所に相談に行きたかったが、父親は朝から晩まで仕事をしており、平日昼間しか開いていない役所に相談する時間もなかったとのことでした。

 

[図表1]相談者と本人(要介護者)の関係性

1. 【相談】統合失調症があり自宅にこもっている30代の息子

◆年金だけでは生活できず、深夜までパート勤務する父親

70代後半のその男性は、年金だけでは家族を養えないからと、パート勤務もして家計を支えているということでした。

 

「夜23時以降であれば仕事から帰宅します」ということだったので、行政書士の私から深夜、相談者の携帯電話に連絡しました。

 

あらかじめ、メールにて基本的な生活保護制度や調査の基準に関すること、こちらからの質問への回答といったやり取りはしていたので、電話でのお話はとてもスムーズでした。

 

■ポイント

 

収入のない子の面倒を、これまでは見てきた親が、高齢になり、家計が苦しくなって、子の生活保護申請をする事例が増えている。

 

◆父親(=本人の扶養義務者)の気持ち

父親の話の要点をまとめると、以下の通りです。

 

・これまで、両親と息子さんの3人で暮らしてきた。息子さんには統合失調症があり、今は自宅にこもっている。

・父親70代、息子30代。

・父親は高齢になり、息子さんの生活の援助も限界。

・息子さんには独立して欲しい。

 

2. 【申請前】本人の同意のもとでの1人暮らし独立が申請条件

◆資産・収入が一定以上ある親族と同居している場合

この事例では、両親と息子さんが同居しています。

 

どんなに困窮していても、資産・収入が一定以上ある親族と1つ屋根の下で同居している状態では、生活保護申請をしても、無収入の子だけ単身での申請は原則認められません。

 

経済的DVを受けているなど特殊なケースでは、同居の状態でも単身申請をしてすぐに行政救済に至ったケースもありますが、極めてまれです。

 

今回は幸い、息子さんも、1人暮らし独立に同意とのことでしたので、当事務所では、物件探しのサポートと、生活保護申請を行いました。

 

■ポイント

 

引きこもりの子が家を出て行かず、生活保護申請ができないため困っている親御さんも多い。

 

そのケースでは親御さんが荷物をまとめて家を出ることで、これまでの経済援助を受けられなくなり、資産収入のない子が1人残った家の管轄福祉事務所に生活保護申請をするケースもある。