近年、相続対策や資産運用など、保障以外を目的とした生命保険商品が増えています。特に資産運用を謳いながら、リスクの高い保険商品を勧める営業手法には注意が必要です。本記事では、ニックFP事務所のCFP山田信彦氏が、退職金運用を検討していた60歳男性への「終身移行型変額保険」の勧誘事例とともに、本当に必要な保険の見極め方について解説します。
退職金が狙われる…巧みな話術で「終身移行型変額保険」を勧誘された60歳の定年男性、1,800万円払って「300万円蒸発」の真相【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

資産運用できると聞いていたのに…「変額保険」の実態

(※写真はイメージです/PIXTA)
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河島さんが相談したFPは「保険設計書」を一読して話し始めました。

 

「河島さんの保険加入目的は終身保険による相続税非課税枠の活用と資産運用とのことですが、そもそもこの保険は終身保険ではありません。終身移行型変額保険と書いていますよね。紛らわしい表現ですが、この保険は保障期間が15年間の普通の掛け捨て定期保険に『特別勘定』という名前の投資信託のような機能が抱き合わせているだけ、ともいえる商品です。

 

ほら、ここに第1保険期間が15年間でその期間満了時に終身保険に移行できると書いてあるでしょう。しかし移行時の終身保険金は特別勘定部分の運用結果次第ですから、15年経過後は1,500万円の保険金が確保されるかどうかは現時点ではわかりません

 

その説明に河島さんはショックを受けましたが「それでも保険商品自体が魅力的であれば問題ないでしょう」と反論しました。しかしFPはこう答えました。

 

「この保険設計書によれば河島さんが60歳から75歳になるまでの15年間、毎月約10万円の保険料を支払うことになっていますので、総額1,800万円程度の払込みになります。その内訳は保険設計書に書いてありませんが、ここに投資信託的な機能を持つ特別勘定での15年間の運用利回りが0%、つまり損も得もしなかったという前提での15年後の運用後積立金額が1,200万円弱と書いてあります。

 

また、保障部分ですが、河島さんの性別と年齢で1,500万円保障の定期保険料をネット保険の簡単見積もりでやってみましたが、15年間の払込総額は300万円程度でした。1,800万円から1,200万円と300万円を差し引くと300万円。この部分が保険会社と紹介した銀行の取り分と考えていいでしょう。約17%弱が蒸発ですね

 

さらにFPは続けます。

 

「それからこの要介護2状態でも保険金を支払うというところですが、75歳未満で要介護2になる確率はそもそも高くないので純保険料がそれほど高額になるとは思えません。先ほどネット上で簡単見積もりをした保険会社も一定の利益は当然取るわけですから、その部分と相殺されるくらいのイメージでいいと思います。

 

この保険の最大の問題点は、河島さんの保険加入の目的が相続税非課税枠の利用であるにもかかわらず、保険設計書によると総額約1,800万円の保険料を支払っても特別勘定のところで3%以上の運用益を達成しない限り15年後以降には1,500万円の終身保険金額すら確保できないことです。これが本当にいい保険にみえますか?」

 

「危ないところだった」と河島さんは相談にのってくれたFPにお礼をいうと同時に、生命保険営業員にはこの保険には加入しない旨の連絡を入れました。