近年、相続対策や資産運用など、保障以外を目的とした生命保険商品が増えています。特に資産運用を謳いながら、リスクの高い保険商品を勧める営業手法には注意が必要です。本記事では、ニックFP事務所のCFP山田信彦氏が、退職金運用を検討していた60歳男性への「終身移行型変額保険」の勧誘事例とともに、本当に必要な保険の見極め方について解説します。
退職金が狙われる…巧みな話術で「終身移行型変額保険」を勧誘された60歳の定年男性、1,800万円払って「300万円蒸発」の真相【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

60歳で定年退職、「生命保険」を使った資産運用を紹介され…

とある上場企業を定年退職した60歳の河島さん(仮名)。すでに2人の子供も独立して住宅ローンも返済を終えたという恵まれた事情もあり、再就職はせずに奥さんと悠々自適な生活を始めたところでした。

 

そんなある日、普段から付き合いのある銀行で退職金運用について相談をしたところ、

 

「河島さんの場合はすでに十分な預貯金があり、万一の場合でも奥様には遺族厚生年金も支給されるので、保障目的の生命保険は必要ないと思います。退職金は将来相続対策と資産運用を兼ねた終身保険などを活用することを検討されてはいかがでしょうか? 生命保険も進化していて魅力的な商品がいくつもありますよ」

 

とアドバイスを受けました。

 

相続には「法定相続人×500万円の生命保険金非課税枠」というものがあることを、河島さんはそのときに初めて知りました。万一の場合には遺された家族がその枠内までは相続税を払うことなく保険金を受け取れると同時に、自分が生きているあいだは資産運用もできるという生命保険商品があるというのです。そこで早速、その銀行の紹介で、ある生命保険会社の営業員から詳細な説明を後日受けることにしました。

 

「資産運用型保険」を勧められた河島さん

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

1週間後に面談したその生命保険会社の営業員は商品パンフレットと河島さん用に作成した保険設計書を持参してきました。勧められた保険には素敵な響きのカタカナ商品名がついていて、その下には小さな文字で「介護保険付き終身移行型変額保険」と書いてあります。

 

河島さんの法定相続人は奥さんと子供2人の計3人ですので、相続税非課税枠は1,500万円となり、ちょうどそれに合わせた保険金額での設計書になっていました。

 

営業員の説明によると

 

「この保険は相続税非課税枠の対象となる1,500万円の死亡保障はもちろんのこと、認知症に起因するケースも含めて要介護2以上の認定でも保険金が支払われます。また特別勘定を用いて支払い保険料も運用しますので、死亡保障と同時に河島さんがご健在なうちは資産運用までできるという優れものです」

 

とのことです。

 

河島さんは「死亡保障」「介護・認知症対策」「資産運用」3点セットのこの保険に興味を持ちました。しかし、保険料支払いが毎月約10万円で15年間続くため、慎重に考え、その場での契約手続きはせず、念のため、第三者である専門家の意見を聞いてみることにしました。