生活保護は、貧困によって最低限の生活すらできなくなった場合に、最後のセーフティネットとして機能するものです。しかし、誤解や偏見のために、本来受給すべき人が受給できていない実態があります。本記事では、これまで10,000件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏が、著書『わたし生活保護を受けられますか』(ペンコム)から、生活保護についての正確な知識を解説します。
生活保護のよくある誤解…「家族の資金援助が条件」「稼いだ分は全額減額」どちらもウソ!知っておくべき“本当の仕組み”【特定行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

生活保護制度の仕組みと「不正受給」の条件

◆生活保護制度の仕組みを正しく知っていれば、もっと早く人間らしい暮らしができる

日本の生活保護制度は、憲法で保障された健康で文化的な最低生活を保障するため、実によくできています。

 

生活保護費は多くないからいざという時に困ってしまうと悩む方もいますが、たとえば他県に住む親が危篤状態で駆け付けたいときなど、申請をすれば帰省するための交通費が通常の生活保護費とは別に支給されます。

 

隣の部屋に悪臭や騒音問題を起こすトラブルメーカーが入居して困っている、ストーカー被害に遭って引っ越したい、エレベーターのない賃貸物件で足が悪くなったので2階まで階段で上がれないから引っ越したいなど、やむを得ない事情で引っ越したいときには、荷物を業者に運んでもらう引っ越し代や、新居の敷金・礼金・火災保険料・鍵の交換費用などの申請もできます。

 

エアコン、ガスコンロ、炊飯器、食器など、最低生活を送るのに必要なものが全くない場合には、家具什器費の申請もできます。

 

しかし、このことを知らずに借金をしてしまったり、やむなく経済援助を受けてしまって、本来申請すれば受けられるはずの生活保護費を受けられないだけでなく、借り入れや経済援助が収入扱いとなり保護費が減額されてしまう悲しいケースの相談も途切れることがありません。

 

生活保護制度の仕組みを正しく知っていれば、人間らしい暮らしができたのにと嘆く方は多いです。

 

◆不正受給の中身で最も多いのは、稼働収入の無申告

生活保護の不正受給がたびたびメディアやSNSでも大きく取り沙汰されますが、不正受給の中身で最も多いのは、働いて得た収入の無申告です。

 

生活保護受給中に働いてしまうと、たちまち保護を止められてしまう、そうなれば少ない収入だけでは生活ができないと誤った思い込みをしてしまい、アルバイトなどの収入を申告できずにいる人もいます。

 

働いていても、最低生活に足る収入がなければ、生活保護は受けられます。

 

また、働いて得た収入すべてが保護費より減額されてしまっては働く意欲を保つことも実際難しくなるので、一定額が保護費より減額されない仕組みもあります。

 

特に、自営業の場合や、未成年学生のアルバイト代、塾代など、収入として生活保護費が減額にならないさまざまな控除がありますので、決して収入を隠すことなく申告して、堂々と生活保護を受ける権利を行使してください。

 

◆遠慮することなく、ケースワーカーに相談を

また、実際この仕事をしてどのくらい収入を得ると、どれだけ保護費が減額されるのかなど、細かなことも不安を抱えるのではなく、都度ケースワーカーに相談して、きちんと理解できるまで説明をしてもらい、それでも不安であれば説明の内容を文書で出してくださいと求めることもできます。

 

文書の発行などいつも忙しそうなケースワーカーに頼みづらいという相談も多いのですが、自分の権利を守るためだけでなく、収入申告をきちんとするなど義務を果たすという意味でも、「今後間違いがないよう読み返せるように書面をください」などと求めることをためらう必要は決してないのです。

 

 

三木 ひとみ

行政書士法人ひとみ綜合法務事務所

特定行政書士