生活保護は申請を受理してもらうまでのハードルが高くなっています。その背景には、生活保護の相談に訪れる人に申請自体の断念を促す行政の「水際作戦」があるといいます。10,000件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏が、著書『わたし生活保護を受けられますかー全国10,000件申請サポートの特定行政書士が事例で解説 申請から決定まで』(ペンコム)から実例をもとに解説します。
「生活保護の要件はすべて満たしているのに」…福祉事務所に相談する人の「6割以上」が申請“すら”させてもらえないワケ【特定行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「水際作戦」が行われる理由

◆なぜ起きるのか

このお手紙の方は、行政書士の私に相談された時点で収入も資産も経済援助もなく、すでに生活保護の受給要件をすべて満たしていました。

 

ではなぜ、自分で最初に役所に行ったときに追い返されたのか、申請さえすれば生活保護を受けられたのに、それすらさせてもらえなかったのか。自身ではその理由は、若くて働けそうに見えたからだと思う、と話されていました。

 

この方は、他県から当事務所にお電話をくださり、同日来所、その場で行政書士が申請書を作成して翌日役所に提出しました。一度は門前払いをした同じ役所です。でも、お手紙に記載の通り、この申請は至ってスムーズで保護決定に至りました。

 

一般的に水際作戦と呼ばれる、福祉事務所での門前払いがなぜ起きてしまうのか、この背景理由を知っておくと、自身や家族、友人が、いざ生活保護が必要になったというときにスムーズに申請をする一助となるかもしれません。

 

◆日本国民が最低限度の生活を営む権利は憲法で保障

日本は三権分立の仕組みをとっているので、法律を定める「立法権」と、法律に沿って政策を実行する「行政権」、そして法律違反を罰する「司法権」は、別の機関がそれぞれ分担しています。

 

国のルールである法律を定めることができる唯一の立法機関、それは国民から直接選ばれた衆議院、参議院の政治家で構成されている国会です。

 

立法機関により定められた法令に基づいた行政の手続きに不合理な点があれば、それは司法権を持つ裁判所が判断します。

 

裁判官は、自らの良心に従って判断できますが、憲法と法律には拘束されます。

 

そして、あらゆる法律において最も優位にあるのが、憲法です。このように、日本国民が最低限度の生活を営む憲法第25条で保障される権利は、厳重に守られる仕組みが本来あるのです。

 

◆福祉事務所では、生活保護法令(ルール)と、生活保護の実施要領(指針)にのっとって

生活保護申請や保護受給後のことなどは、福祉事務所という行政機関や福祉事務所の職員の感情や私的判断ではなく、基本的に法令のルールによって細かく定められています。

 

これは法治国家の原理原則で、行政の活動や判断の内容は、国民自身が選んだ政治家が国会で作った法令によって規律されているわけです。

 

そして、水際作戦と呼ばれるような行政対応の根拠、背景には、次のような生活保護法令があります。