「月々の負担を抑えたい」…軽い気持ちで組んだ住宅ローンがアダに
Aさんがマンションを購入したのは20数年前。ちょうどバブル景気がひと段落し、不動産価格や住宅ローン金利が落ち着いたころでした。
「バブル期の高金利のときよりも金利が下がっているから、支払えるだろう」と、返済計画は特に立てず、毎月の支払いを安く抑えようと最長期間の住宅ローンを組みました。結果として毎月の返済額は下がったものの、その代わりに返済終了年齢が70歳代となってしまったのです。
当時のお話を聞くと、「ローンを組んだときは、年齢が進めば繰上げ返済をすればいいと思っていたが、気づいたらいまになっていた」「自営業のため収入にも波があり、生活費とのバランスが徐々に変わっていったことに薄々気づいてはいたが、どうすることもできず、こうなってしまった」「いまの自分に残っているのは住宅ローンだけ」とAさんはいいます。
住宅ローンは、長期にわたって返済が必要です。返済計画を立てずに借入限度額いっぱいに借りようとすると、将来的に返済が難しくなるケースもあります。借入限度額=返済できる額ではないということに留意しましょう。
また、返済計画を立てる際には、ローン完済までの収入の見通しを立て、十分な貯蓄を見込んだ上で行う必要があります。
年金受給までの期間にできるだけの準備を
一般的に「セカンドライフ」と呼ばれる定年退職以降は、現役時代よりも収入が下がります。 再雇用制度や年金受給によって収入を補うことはできますが、生活費などの支出と収入に差が生まれる場合、これまでの貯蓄を取り崩して生活するケースがほとんどです。
この収支のバランスを調整するには、「収入を上げる(増やす)」か「支出を下げる(減らす)」かを選ぶ必要があります。
収入を上げる(増やす)場合
収入を上げる(増やす)ためには、現役時代からつみたてNISAやiDeCo、貯蓄型保険などを使って老後を見据えた資産形成を行ったり、年金受給額を増やすために国民年金基金や付加年金に加入しておくといいでしょう。
「国民年金基金」とは、自営業・フリーランスなどの国民年金加入者が加入できる、国民年金に上乗せして加入できる公的な年金制度です。将来受け取りたい年金額に合わせて、自分で口数を選んで掛け金を払っていくことで、将来の年金額を増やすことができます。
支出を下げる(減らす)場合
支出を下げる(減らす)ためには、生活費の見直しが欠かせません。特に、収入が限定されるセカンドライフにおいては、「固定費をいくら払っているか」が重要です。住宅ローンはその最たる例で、返済期限が定年退職以降となる場合は、繰上げ返済を計画的に行ったり、定年退職以降に返済とならないローンの組み方をすることが大切です。
Aさんの場合は、住宅ローンの完済まであと数年ですから、完済後は固定費が大幅に減ります。そこまでは心身の折り合いをつけながらアルバイト勤務を続け、完済後は無理のない働き方にシフトすることができそうです。
まとめ
Aさんも筆者との相談のなかで「再び働き始めたことで、生きがいを見出している」「アルバイトを通じて仲間と出会えた」とこぼしていたように、筆者は「定年後に働く」という考え方自体は悪いことではないと考えています。
しかし、「働くことをセーブし、自分の時間を過ごしたい」と考えているにもかかわらず、働かざるを得ないという苦しい事態は避けたいところです。本来イメージしていた「理想の人生の歩み方」を実現できるよう、現役世代からの将来設計を大切にしていただきたいと思います。
<参考>
・令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況:厚生労働省年金局P8表6
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表